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2022.01.26

宇宙でも美味しいイチゴが食べられる? 東大発の「受粉ロボット」とは

HarvestXを立ち上げた市川友貴


──農業、そしてイチゴとの出会いは?

ロボティクスに関連したやりたいことを模索する中で、大学2年の時に、イチゴ農家の方や葉物野菜を生産する植物工場の方とお話しする機会がありました。そこで工場でのイチゴ栽培における課題を知ったんです。

特に大きな課題となっていたのが、受粉の自動化。調べてみると、日本国内ではあまり研究が進んでいない分野であるとわかり、受粉をロボティクスでシステム化できたら面白いのではないかと考えました。

イチゴは、生食だけでなくケーキやジャムなど加工品としても一年を通して需要があり、高単価な果物です。ロボット開発には初期投資がかかりますが、イチゴならリターンも大きい。何より僕自身イチゴが大好きなので、イチゴ栽培の完全自動化を実現しようと決意しました。

とはいえ、すぐに起業をしたわけではありません。2020年3月の大学卒業時にはアメリカで植物工場を運営する企業に内定をもらっていて、そこで修行をしてから起業を目指す予定でした。

ところが、新型コロナウイルスの影響で渡米できなくなり、国内の企業に就職。サポーティブな企業だったため、ハードウェア開発などをしながら起業のための資金調達に奔走する日々となりました。そして、翌年8月に起業。当初描いていたステップとは違いますが、社会実装するにあたってどの選択が良いか考えたとき、結果的に最良だったと思っています。

──「起業したい」という想いはいつから?

テックガレージに入るまではあまりなかったんです。でも、テックガレージには自身の研究をもとに会社を立ち上げる方がたくさんいて、ときには起業家の方が講演に来てくれる機会もあり、「会社をつくること」が自然と選択肢になっていきました。

投資家や東大の先生方にも、起業について気軽に相談できる環境でした。そうした縁から大学卒業時の2020年に、起業支援やベンチャー投資を行っている東京大学のファンド「東大IPC」のプログラムに参加して、プロトタイプ開発の機会を得ました。



──受粉ロボットとはどのようなものですか。

画像処理アルゴリズムを用いて、カメラで花と果実の認識を行うものです。

受粉技術は、虫媒以外にも、「採取した花粉を人の手でブラシにつけてめしべに塗る」という方法などがあります。この方法が最も高い受粉精度が期待できるため、これをロボットに転用しました。ロボットアームの先端に綿状のブラシをつけて花粉を塗るのです。

花粉はおよそ25マイクロメートル。髪の毛の直径よりも少し小さいのでですが、アームを制御しながら花全体にまんべんなく塗るのは至難の業。ただ、我々は学生時代からずっとロボット開発に携わり、世界大会でのロボコン大賞受賞経験も持つメンバーが揃っているので、高い精度を実現することができました。優秀な人材がいて、少ない期間でプロトタイプの試作と検証を繰り返せる点は我々の強みですね。
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文=西崎圭一 取材・編集=田中友梨 撮影=小田駿一

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