キャリア・教育

2015.05.24 08:00

「人事のプロ」LIXIL副社長が語る 万里の長城で研修をする理由

今から2,500年前に秦の始皇帝が築いた万里の長城。<br />現存する人工壁だけでも約6,000km超で、日本の本州一周分。<br />そのスケールに、社員が「世界」を感じ取る。

キミの軸はどこだ! リーダー育成の鍵
LIXILグループの執行役副社長を務める八木洋介は、旧日本鋼管、GEの人事畑を歩んできた「人事のプロ」。
経営幹部候補のリーダーシップ強化を目的とした合宿型研修が、万里の長城で行われる理由を聞いた。


最初に言っておきたい。研修では人は育たない。研修というのは、「学びの継続」をスタートさせることができるだけだ。しかし、間違いのない方法で着火できれば、人は自らを変革し、「Change or Die」というチームリーダーの資質を獲得することができる。

LIXILは次代の経営をリードする次世代経営リーダーの育成に注力し、2012 年より部長層を対象とした「エグゼクティブ・リーダーシップ・トレーニング(以下ELT)」を行っている。テーマは「軸を創り、智を磨く」。研修は4 段階で、毎回2泊3日の合宿を行い、半年間の個人コーチングと合わせて計1年をかける。
肝は第3回で、「変革」がキーワード。自分の生き様を再確認し、その後の生き方を変えていくのが狙いだ。「智」は家でもスターバックスでも職場でも、身につけようと思えば身につく。しかし「軸」の確認、自己変革には「場」が必要だ。
そこで我々は万里の長城を選んだ。

理由のひとつは非日常であること。我々はもともと森の動物である。自然のなかで人は鈍っていた五感を刺激され、我々が生のエネルギーに満ちあふれた存在であることを思い出す。ふたつめの理由はグローバルであること。社員のほとんどは英語を話せず、普段は日本式「あ・うん」の呼吸で社内の関係性を築いている。しかしグローバルを目指すのであれば、まず言葉にして伝えるという意思疎通を徹底的に課さないといけない。その意識変革に隣国でありながら、これだけ文化の違う中国はベストだろう。

万里の長城の下、具体的にはこれまで最も腹が立ったことを議論させる。腹が立つということは、自分の正しさを踏みにじられたからだ。つまり、そこに自分が大切にしている価値観がある。多くの人は一睡もせずにこの課題と向き合い、「自分にはなんとなくの好き嫌いはあるが、軸はない」ということに気づいて強いショックを受ける。そして軸という判断基準があれば、物事を冷静に判断し、選択し、決断できるということを腹の底で理解するようになる。非日常の場でそのような強烈な衝撃を受ければ、人は一生そのことを忘れないだろう。

大切なのは、自分が正しいと思ったことを、即行動に移すことだ。深い思索は素晴らしいが、怖がって時期を逃しては元も子もない。「軸」と「智」を得て、変革あるいは問題解決という行動を起こせるチームリーダーを育成するのが、この研修の意図である。

弊社は今、年齢や性別、国籍や人種によらない多様性=ダイバーシティを尊重する企業文化を目指している。ELTの参加者の約20%は女性であり、女性管理職登用者も初年度は30%、3年目には37%となった。社内的にも質のよい行動を起こす人が増えたという実感がある。

M&Aでドイツの高級水栓金具メーカー「グローエ」、アメリカ最大級の衛生陶器メーカー「アメリカンスタンダードブランズ」などがグループ入りした今、日本はLIXILというグローバルカンパニーをドライブしていくひとつの国という位置づけにあり、ひとつの企業体として成長を目指す。今年はバルセロナにある世界トップランクのビジネススクール「IESE」とタイアップし、日本人10人、外国人20 人ほどを集めて、もう一段階レベルの高いELTを行う予定だ。

経験はレゴのようなもので、一般的に年齢が高いほどいろんな種類のレゴを持っている。ないのは設計図だけ。だから設計図を描く場を与え
る。それがELTだと思う。東進ハイスクールの林修先生の「いつやるか? 今でしょ!」という言葉が流行ったのは、誰も今やらないから。弊社は、今やる。今日よりも明日にいいことが見えているなら、常にChange or Dieです。

構成=堀 香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.11 2015年6月号(2015/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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