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2022.01.19

クレディ・スイス会長辞任、「幹部と平社員は別ルール」時代の終わりか

アントニオ・オルタオソリオ(Photo by Carl Court/Getty Images)

グローバルな大企業には2種類のルールが存在するようだ。CEOをはじめとする幹部向けのものと、一般社員向けのものである。2020年から2021年半ばにかけて、筆者も本欄で、社員が大量解雇される一方で経営幹部らは巨額の報酬を得ているというテーマを十数回取り上げている。なかには、勤め先が経営破綻した結果、社員は現代米国で最悪レベルの雇用市場に投げ出されたのに、幹部らは大金を手にしたような例もあった。

ただ、状況は変わりつつあるのかもしれない。ウォールストリート・ジャーナルによると、クレディ・スイスのアントニオ・オルタオソリオ会長は、新型コロナウイルス感染症に関する規制に違反していたことなどがわかり、このほど引責辞任した。オルタオソリオは2021年7月に英国を訪れた際、隔離が必要な期間中にテニスのウィンブルドン選手権を観戦していた。さらに、同年秋には休暇でモルディブに旅行するのに社用機を使用していたと、スイスメディアで報じられている。

クレディ・スイスはこれ以前にも不祥事が相次いでいた。スパイ行為やカーチェイス、けんか、自殺などは普通、生真面目で保守的なことで知られるスイス銀行界から連想されるものではないが、クレディ・スイスはそうしたステレオタイプを崩した。クレディ・スイスでは2020年、元幹部2人が内定されていたことが発覚。当時のティージャン・ティアム最高経営責任者(CEO)が引責辞任に追い込まれた。

2021年には、顧客のヘッジファンド、アルケゴス・キャピタル・マネジメントの不審な取引慣行をめぐって、クレディ・スイスは巨額の損失を被ったばかりか、信頼も大きく損ねた。CNNによると、クレディ・スイスはアルケゴスが「破滅的な結果になりかねないリスクを貪欲にとれるようにした」結果、55億ドル(約6300億円)もの損失を出した。

ロサンゼルス・タイムズは、CEO職はもはや安泰ではないかもしれないと報じている。アリックスパートナーズによる最新調査では、事業上の問題で2022年に職を失うかもしれないと懸念しているCEOが全体の72%にのぼったという。さらに94%のCEOは「3年以内に自社の企業モデルを見直す必要がある」と答えている。

アリックスパートナーズのサイモン・フリークリーCEOは、CEO職が不安定になっている状況について「サプライチェーンや労働市場といった混乱要因がすべて同時に作用している」と説明。また、CEOたちは新型コロナのパンデミック中、株価の上昇につながる持続的な成長も株主から求められており、この点もプレッシャーになっていると解説する。

昨年1年に、テクノロジー業界では126人前後のCEOが退任した。これにはアマゾンの共同創業者ジェフ・ベゾスやツイッターの共同創業者ジャック・ドーシーも含まれる。2人の場合、自社を著名企業に育て上げ、巨額の富も築いたあと、たえず注目を浴びることにともなうプレッシャーから解放され、別の情熱を追求したいと考えたのかもしれない。

現在、ベゾスは宇宙旅行、ドーシーはビットコインなど暗号資産の分野で新たなチャンスを探っている。

編集=江戸伸禎

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