森:さらに私のダイバー仲間には、若田宇宙飛行士をはじめとする日本人宇宙飛行士の水中訓練のインストラクターをしている人もいます。
せりか:本当ですか!
森:はい。その人とは仲良くさせていただき、よく「Hiro(森のニックネーム)なら、英語もできるし、プロダイバーとしても活躍しているし、宇宙物理や宇宙航空工学を学べば宇宙飛行士なれるよ」と言ってくれました。そして、その後本当に宇宙物理を学ぶために、大学に進学することになりました。
大学に入学した年(飛び級入学したため学部二年生)に、宇宙飛行士の訓練施設を立ち上げようとしていた人を別のダイバー友達に紹介いただきました。在学中にロンドンへ行き、その方とお会いすると、その場ですぐに意気投合し、会社に立ち上げメンバーとして加わることに。仕事として宇宙に関わり始めたのはこの時が初めてです。
もちろん物理学や宇宙科学に飽きたわけではないんですよ。でも、理論物理学は研究のための設備は必要なく、一人でもできます。仕事でやるなら、一人ではできないこと……宇宙産業に関われる仕事がいいと思っていました。それから、生きているうちに成果が目に見える仕事がしたいという観点も大事にしていましたね。
新たなフロンティアの開拓が社会を成長させる
せりか:実際に仕事で宇宙に関わるようになって、目に見える成果は何かありましたか。
森:仕事として宇宙に関わるようになって2年強経ちましたが、宇宙産業の盛り上がりは感じています。これまでは科学分野でしか議論されていなかった宇宙ステーションや宇宙における光通信に事業者が参入し始めているのも大きな変化です。
実際に働いてみて気が付いたのは、宇宙産業と地上の産業は大して変わらないということです。宇宙に物を持っていくかどうかの違いでしょう。
せりか:そう言われてみれば、そうですね。では、なぜ人は宇宙開発に取り組んでいるのだと思いますか。
森:一番のドライバーは、やはり知的好奇心と探究心ではないでしょうか。宇宙開発には膨大なコストがかかりますし、放ってはおけない地上の課題も山積みです。でも、歴史を振り返るとイノベーションを起こしたり、社会を大きく成長させたりしてきた変化の裏には、新たな大陸を目指した大航海時代のように、空間的な拡張がありました。山頂も海底も開拓した今、次のフロンティアとして宇宙を目指すのは自然なことです。
そして、宇宙は“目指す場所”としても重要だと思います。わかりやすい例を挙げると、宇宙飛行士になるために努力をする人は多いですが、宇宙飛行士に選ばれなかったとしてもその過程でたくさんのものを得られるのではないでしょうか。
(c) 小山宙哉/講談社
せりか:私も選抜試験や訓練を経て、ISSに搭乗した宇宙飛行士のひとりです。森さんがおっしゃる通り、宇宙飛行士を志したからこそ身に付けられたスキルは多くあります!