ミサイルを発射した北朝鮮側の意図の分析は別の機会にするとして、思いが至るのは、事態対処・危機管理を担当する内閣官房副長官補室の担当者たちの苦労についてだ。14日と17日のミサイルは、ほぼオフィスアワーの時間帯での発射だった。担当者たちは当然、首相官邸などで勤務していただろうから、特段の問題はなかったと思われる。だが、5日と11日はそれぞれ早朝の発射だった。担当者の大半は自宅にいる時間で、まだ就寝していた人もいたかもしれない。
ミサイルが発射されると、担当者たちの携帯に自動音声でミサイル発射の通知が届く。すると、担当者らは脱兎のごとく、首相官邸地下にあるオペレーションルームに向かわなければならない。以前は一律、30分以内に集合という時期もあったようだが、今は官房長官や関係省庁の局長だけが30分以内で、危機管理担当の担当者は15分以内の到着を目指しているという。
起きてから15分なんて、普通の人なら、着替えと洗顔を済ませて、ようやく朝食でもとろうかという時間だ。しかも、「15分以内に出発」ではなくて「15分以内に到着」だというから、恐れ入る。
元政府高官によれば、このような態勢を作る発端は1995年1月に発生した阪神淡路大震災だった。発生時刻は午前5時46分。当時、公邸に住んでいた村山富市首相はニュース速報で地震発生を知り、官邸に急いで駆けつけたが、誰もまだ到着していなかったという。地方自治体が自衛隊に出動要請を出すタイミングが遅れたこともあり、政府の初動対応の遅れに批判が集まった。その後、1998年に内閣危機管理監のポストを新設するなど、現在に至る態勢作りが進んだ。
ただ、素晴らしい制度を作っても実行するのは人間だ。特に、北朝鮮のような予告もせずに、いきなりミサイルを発射する国が相手では緊張を緩める暇がない。南北関係を長く担当した韓国政府の元高官によれば、北朝鮮の軍事哲学のなかには、「相手が最も嫌がることを行う」というものがある。例えば、「相手が職場を離れ、気持ちを緩めやすい、祝日や夜中に行動しろ」ということになる。