国際協力を阻む「郷党心」 42カ国1.8万人の実験で浮き彫りに

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世界経済フォーラム(WEF)は数年前のグローバルリスク報告書で、気候変動などの問題に関する国際的協力が縮小していると警鐘を鳴らした。ドナルド・トランプが率いる当時の米政権が日常的に国際協力を軽視していたことを考えれば、当然のことだ。

トランプ政権は当時、世界的な問題に取り組む上で必要だと考えられていたグローバリズムに対抗するナショナリズムの番人としてとらえられていた。独マックス・プランク集合財研究所の最近の研究からは、協力が必要な場面でこのようなナショナリズムが見られるケースは、私たちが思っているほど珍しくないことが示されている。

研究チームは、42カ国の約1万8000人を対象に、相手が自分と同じ国の出身者だった場合に協力性が高まるかどうかを調べた。結果、全ての国の人が、外国人より自国出身者との協力を好むことが示された。

参加者はパートナーとペアになり、ゲーム理論で有名な「囚人のジレンマ」のタスクに取り組んだ。各タスクで10の「通貨」を与えられ、その通貨を自分で保持するかパートナーに与えるかを決めるよう指示された。パートナーに与えることを決めた通貨は倍になり、パートナーから与えられた通貨も同様になる。そのため理論上は、持っている通貨を全て相手に与えることが最善の戦略だ。また参加者は、自分の選択が公開されると言われたグループと、自分の決断は他者に明かされないと言われたグループに分けられた。

自国人に対する即座の信頼


結果からは、42カ国中39カ国で、人は自国人とペアになったときの方が協力しやすいことが示された。残りの3カ国もこうした傾向があったが、統計的に有意な差はなかった。この傾向は自分の決断が公開されるかどうかによって変化はせず、どちらの場合も自国人に対する「郷党心」が示された。架空の通貨を実際の通貨にして行なった場合も結果は同じだった。

個人の政治的信条による違いはないと見られたが、国による違いは示された。平等主義の国や、平等な関係を築ける機会がより高い国では、国際協力の傾向が強かった。
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編集=遠藤宗生

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