「新しい日本型資本主義」とは何か

新たな政権が「新しい日本型資本主義」のビジョンを掲げた。世界を覆う金融資本主義の下で、人々の貧富の差は拡大を続け、人類の歴史上、最大になっている。地球環境破壊や都市一極集中などの問題も引き起こす現在の資本主義は、明らかに、その限界を露呈している。

では、これから我が国がめざす「新しい資本主義」とは、いかなるものであるべきか。そのことを考えるとき、我々が思い起こすべき、大切な言葉がある。

「いかなる問題も、それを作り出した同じ意識によって解決することはできない」

このアインシュタインの言葉のごとく、現代の資本主義を生み出した現代の経済学の考え方の延長では、新たな資本主義を構想することはできない。

筆者がそのことを痛感したのは、2009年1月のダボス会議において、著名な経済学者達が語るリーマンショック後の資本主義変革論を聴いたときである。

その失望から浅学を顧みず執筆したのが、拙著『目に見えない資本主義』であるが、我々が本当に資本主義の変革を考えるならば、まず、資本主義の基盤となっている「経済原理」に目を向けるべきであろう。なぜなら、現代の経済学は「貨幣経済」(マネタリー経済)にのみ目を向けているが、文化人類学の視点で見るならば、現実の経済は、物々交換の「交換経済」(バーター経済)や、善意や好意で相手に価値あるものを贈る「贈与経済」(ボランタリー経済)によっても動いているからである。

そして、近年、世界の隅々に浸透しているネット革命は、このボランタリー経済の影響力を劇的に拡大し、例えば、アマゾンの書評や商品評価、グーグルの検索サービス、リナックスのOS開発などに象徴されるように、「無償」での情報提供やサービス提供がマネタリー経済のビジネスモデルと見事に融合し、極めて「高収益」の企業が生まれている。

言葉を換えれば、ネット革命以前には、経済活動を「利益追求を目的とする営利活動」と「社会貢献を目的とする非営利活動」に分けて理解する傾向が強かったが、ネット革命の進展によって、この利益追求と社会貢献の二つの活動が融合し、マネタリー経済とボランタリー経済が融合した「ハイブリッド経済」と呼ぶべきものが生まれている。

資本主義の最先端の、こうした現実を直視するならば、21世紀の経済学は、このボランタリー経済やハイブリッド経済を評価する手法を開発すべきであり、政府の経済政策は、国の豊かさを考えるとき、マネタリー経済の活性化の視点だけでなく、このボランタリー経済やハイブリッド経済を、いかに活性化するかを考えるべきであろう。
次ページ > 日本型経営の精神を表す「三つの言葉」

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

ForbesBrandVoice

人気記事