そして、21世紀の経済学が、もう一つその理論体系に組み込むべきは「目に見えない資本」である。マネタリー経済において流通するのは「貨幣資本」であるが、ボランタリー経済において流通するのは、知識資本、関係資本、信頼資本、評判資本、文化資本などの「目に見えない資本」である。
実際、資本主義の最先端を走る米国シリコンバレーにおいては、ベンチャーキャピタルなどの貨幣資本(金融資本)も充実しているが、この地域には、上記の「目に見えない資本」も豊かに蓄積し、流通していることを、決して忘れてはならない。
このように、「新しい資本主義」とは、その経済原理として、マネタリー経済とボランタリー経済が融合したものを基盤とする資本主義であり、経済活動としては、「利益追求活動」と「社会貢献活動」が融合したものを基本とする資本主義である。
しかし、こう述べてくると、多くの読者は、何か懐かしい感覚に包まれるのではないだろうか。なぜなら、日本型資本主義や日本型経営においては、本来、利益追求と社会貢献を、対立するものとは考えていないからである。
そのことを象徴するのが、昔から語られてきた、日本型経営の精神を表す「三つの言葉」である。
「企業は、本業を通じて社会に貢献する」
「利益とは、社会に貢献したことの証である」
「企業が多くの利益を得たことは、その利益を使ってさらなる社会貢献をせよとの、世の声である」
すなわち、欧米型経営では、利益追求と社会貢献を二項対立的に捉えるのに対して、日本型経営では、その二つは、本来、一つであった。
このように、世界の資本主義の最先端の動向と、我が国の資本主義の歴史を深く理解するならば、我々がめざすべきは、まさに「新しい日本型資本主義」であることが、明確に見えてくるだろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国7,000名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』『直観を磨く』『知性を磨く』など90冊余。