ガストロノミーの帝王の名を冠した、フレンチに合う日本酒

基山 ジョエル・ロブション

Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は1月号(11月25日発売)より、「基山 ジョエル・ロブション」をご紹介。バランスよく調和がとれて、料理に心地よく寄り添う1本だ。


ジョエル・ロブションが亡くなって3年がたった。その生前、筆者は一度だけインタビューしたことがあるのだが、巨匠を前に緊張する私に、シェフは「Oh,Mignon!」とほほえんでくれた。私は一瞬何を言われたのかわからず、牛ステーキのことかと思い、「フィレ・ミニョン?」と返して、爆笑されたのだった。言うまでもなくミニョンとは仏語で「かわいらしい」の意味で、お世辞とはいえ、ジョエル・ロブションにほめられたのは私の一生の記念になるような出来事だった。

ジョエル・ロブションは世界最高の料理人と称され、いまも多くの人に追慕されている。生涯を通じて獲得したミシュランの星は33個であり、これは他の追随を許さない記録だ。そしてロブションは日本を愛したことでも知られている。日本を訪れた際には福岡のごまさばや名古屋のひつまぶしなど、各地の郷土料理に親しみ、そのたびに日本酒を大いに楽しんでいたそうだ。自身のスペシャリティの幾皿かにもワインより日本酒が合うといい、パリで日本酒とのペアリングディナーに協力するなど、進取の精神に富んだシェフでもあった。

その偉大な料理人の名を冠した日本酒が、このほどリリースされた「基山 ジョエル・ロブション」だ。「フレンチに合う日本酒」をテーマに醸したのは、佐賀県で100年の歴史をもつ「基山商店」。ジョエル・ロブションの息子であるルイ・ロブションが陣頭指揮に当たり、米や水などの原材料はテロワールを尊重した地元産のみを使用。酒蔵と二人三脚でつくりあげたのだという。

「米、水、こうじ……材料を吟味し、より抜いたお酒だということがよくわかります。バランスよく調和がとれて、料理に心地よく寄り添います」と語るのは、「ガストロノミー“ジョエル・ロブション”」でシェフソムリエを務める高丸智天。同じジョエル・ロブションの名を冠する縁もあり、リリース後まもなくオンリストを決めた。

「日本酒の風味は魚卵系などワインと難しいといわれる食材もうまく包み込みます。世界の料理人に先駆け、フレンチと日本酒のマリアージュに着目したジョエル・ロブションの偉大さに改めて頭が下がります」

今後、この「基山 ジョエル・ロブション」はフランスはじめ、世界へ輸出されていく予定だという。いつか、海外でこのお酒を目にしたら、偉大なシェフへしばし思いをはせるに違いない。「Mignon!」といわれたうれしい記憶とともに。

基山 ジョエル・ロブション



容量|720ml
酒米|基山産山田錦(精米歩合50%)
価格|8800円
問い合わせ|ルイR 03-6722-0454
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text and edit by Miyako Akiyama|photographs by Ryoma Yagi

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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