現実でもリード元上院議員は、エースのモデルになったマフィアのボス、フランク・ローゼンタールに対して、カジノ経営のライセンス発行を徹底的に拒み、マフィア対政治家というテンションを盛り上げ全米の注目を浴びた。
車に爆弾が仕掛けられたこともある。これはローゼンタールか、あるいはかつてリード元上院議員に贈賄を持ちかけて逆に逮捕されたジャック・ゴードンという男の仕業かと噂されたが、事件解決には至っていない。
しかし、彼のこうした絶対に不正を許さない「検察・管理監督行政の長」という態度は、いわゆる世界のカジノコンプライアンスのスタンダードとなり、それがマフィアのラスベガスを世界一のリゾートタウンに変えた立役者と言われる所以である。
議員会館でもっとも友人の多い政治家
2022年1月12日 アメリカ合衆国議会議事堂のロタンダにて(Pool/Getty Images)
細身のいでたち。かつ、よく通らない政治家らしくない声音で、カリスマ民主党員のイメージとは最後まで合致しなかったが、オバマ元大統領の健康保険改革、通称「オバマケア」を力業で立法化するなど、その実質主義の手腕は広くアメリカに知れ渡っていた。
また、敵の悪口を言い出すとそれはドナルド・トランプ前大統領並みに容赦がなく、ブッシュ(子)元大統領や、オバマ元大統領と選挙で闘ったミット・ロムニー候補のことも非難し、厳しくけなした。
しかし、法案をめぐっての討論や選挙が終われば、仲直りをするのもリード流で、おそらく議員会館でもっとも友人の多い政治家であったと言っても間違いない。晩年、ブッシュ元大統領のことをリードは高く評価していたし、ロムニー上院議員とも親交を深めた。
自分とネバダ選出の議席を争った共和党のジョン・エンスン元上院議員とも、党拘束にはばかることなく、お互いの現役中、とても仲が良く、意思疎通がとられていた。
「地元エゴを通した」と悪口を言われることもあるが、ネバダ州に東海岸の核廃棄物の処理工場の移転を進めていたときに、エンスン元上院議員と共闘してストップをかけたことはよく知られている。
オバマ元大統領は再選のときにリード元上院議員に電話して、「いま、わたしがここにいるのはあなたのおかげです」と語ったというエピソードもある。民主党のトップが、新人で、たった1人のアフリカ系アメリカ人議員の将来を見出して、実際に大統領までの道を開いたのだ。
舌先三寸の政治家ばかり多いと揶揄される今日にあって、あまり喋らない、声も通らない、目立つことを嫌う、キャラとしておせじにも光らない、しかし実行力は桁外れの議員だったハリー・リード。ラスベガスは立役者の死別で、悲しみに沈んだ。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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