ビジネス

2022.01.13

なぜfreeeは飛躍したのか 私がこの起業家に投資して10年後

DCMの本多央輔(左)とfreeeの佐々木大輔(右)


佐々木:当時、僕はエンジニアをどう増やすのかとか、次のプロダクトの企画をどうするのかとか、開発することしか頭になかったんです。いつか経営チームが必要になるとは思っていましたが、早めに手を打つように声をかけてくれたことはありがたかった。

それから、うまくいってないときに、本多さんはその原因を突き詰めるよう諭してくれた。大抵の場合、起業家は「次にこうやればうまくいくはず」としか思ってないんです。だから、「君はその理由を説明できるのか」とよく言われたんです。それでも、本多さんは苦言を呈してくるというよりは、ダイレクトに議論をもちかけてくる感じなんです。周りの起業家の話を聞いていると、「株主様」みたいなスタンスで接してくる投資家の方もいるようですが、僕と本多さんはパートナーとしてお付き合いしている。

──投資家と起業家が良好な関係性を築くために重要なことは何でしょうか。

本多:僕は「株主様」のような扱いをしてほしいとはまったく思わないし、逆に起業家と「マブダチ」みたいな関係になるのも違うと思っています。重要なのは、お互いがリスペクトし合うこと。僕は、いままでにないプロダクトや新しいマーケットをつくっているとか、カルチャードリブンなスタートアップを体現しているという意味で、佐々木さんをすごくリスペクトしている。

例えば、会社のロゴをプリントしたTシャツや「マジカチ」(「マジで価値ある」の略語)など、社員のみんなが当たり前のように同じ言葉を使って、同じ服を着て、組織の一員であることを誇りにして、「freeeで働くのは楽しいことだし、世の中に広めていきたいよね」という雰囲気をつくっているのはすごいことです。そういう会社って、少なくとも当時の日本にはなかった。

佐々木:基本的な目指す方向性が同じ人と組めるといいですよね。本多さんは「でかいことをやらないと面白くないでしょ」と言い続けているんですけど、僕はそれが面白いと感じたから一緒にやりたいと思った。例えば、普通だったら手持ちの資金のなかで、どうやりくりしていこうかを考えるという場面で、「もっと調達したらどうだ」とアイデアをぶつけてくれる。

本多:実は、結構なハイボールを投げていたんですよ。それでも佐々木さんは必ず打ち返してきますからね。「これをやったらすごいことになるよ」と難題を投げかけるじゃないですか。そうするとある日、「この間の話、できそうです」と平然と言ってくる。それで30億円の資金調達を取り付けてきたこともある。

佐々木:ありましたね(笑)

本多:あのときの電話、鮮明に覚えてますよ。本当にできたんだと思って、「エーッ!」って声に出ちゃいましたから。佐々木さんはそういう大変なことを楽しそうにやってるように見えるんですよね。よく、グリット(やり抜く力)が大事っていうじゃないですか。その楽しんでやり切る姿勢が周りにも伝播して、カルチャーを育んでいるのだと思います。


ほんだ・おうすけ◎DCM日本代表・ゼネラルパートナー。1974年生まれ。一橋大学法学部卒業後、三菱商事、グロービス・キャピタル・パートナーズを経て、2007年より現職。日米中韓の4カ国で投資をしている。

ささき・だいすけ◎freee CEO。1980年生まれ。一橋大学商学部卒。博報堂、CLSAキャピタルパートナーズ、ALBERT執行役員、Googleアジア・パシフィック地域マーケティング統括を経てfreeeを創業。

文=眞鍋 武 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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