社会課題の解決が成長エンジン
「当社は創業以来、一貫して社会課題の解決にこそ価値があると考えてきました。課題に着目して解決する方法を見つければ、それが自然とビジネスになるのです」
霞ヶ関キャピタル執行役員・経営管理本部長の佐田健介はそう強調する。
同社が創業したのは2011年、東日本大震災の直後だ。彼らは被災した仙台市のショッピングセンターの再生プロジェクトに参画。原子力発電の安全性が揺らぎ、その代役を担う新たなエネルギーの必要性が叫ばれるなか、ビルの屋上に太陽光発電システムを取り入れるプロジェクトを立ち上げる。以降、再生可能エネルギー事業は全国へと展開し、会社の創成期を支える主要ビジネスへと成長させてきた。
その後も同社は、社会課題に着目することで事業の拡大を続ける。例えば日本の宿泊施設は、2人以内の宿泊を想定した客室が多いが、実際には家族など4人以上で利用したいニーズは少なくない。同社はそれに応えるため、アパートメントホテル事業に乗り出し、オリジナルブランド「FAV HOTEL」を展開。これは地域の経済を盛り上げる地方創生への取り組みでもある。
また、待機児童が社会問題になると保育園事業にも参入し、東京都内に認可保育園を建設。現在までに7案件を取り扱い、子どもを育てながら安心して働くことができる環境をつくることで、女性の社会進出や少子高齢化対策へ貢献している。
同社は創業からわずか7年で、東証マザーズ市場への上場を果たすに至った。
総事業費2,000億円規模の物流施設開発へ
そんな同社がいま注力するセクターは物流だ。以前から物流事業への参入を検討してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大がそれを加速させた。EC利用の増加などで物流ニーズが拡大したことを受け、2020年6月、物流施設の開発を開始。なかでも「冷凍冷蔵倉庫」に力を入れている。
冷凍・加工食品市場はいま、核家族化や共働き世代の増加、病院や老人ホームなどヘルスケア施設での需要増加に伴い、急成長を遂げている。そんななか、彼らはモントリオール議定書により2030年ごろまでに冷凍冷蔵設備の冷媒にフロンが使用できなくなることを見据え、フロンを使わず自然触媒のアンモニアとCO2を利用した、環境配慮の冷凍冷蔵倉庫を開発している。
2021年10月には、物流倉庫のさらなる開発を目的に「ロジフラッグ・デベロプメント」を設立。パートナーに三菱HCキャピタルを迎え入れ、同社とともに霞ヶ関キャピタルがもつ物流施設開発に関するノウハウ、冷凍冷蔵倉庫開発の知識、豊富な人材を生かし、環境配慮型の冷凍冷蔵倉庫や自動倉庫の開発を推進する。これにより物流業界が抱える課題を解決するとともに、より一層高いレベルでの社会貢献と収益性を両立させることが可能になる。
「週休3日制」が組織にもたらすインパクト
霞ヶ関キャピタルが時代の変化をとらえ、スピード感をもって社会課題に取り組むことができる要因のひとつは、“組織づくり”にある。同社は創業当初から社員が最大限パフォーマンスを発揮できるよう、給与面はもちろん、労働環境づくりも重視してきた。
例えば同社では昇給・昇格の機会は年4回以上、組織変更はほぼ毎月行っている。「必要と感じる手は感じた時に躊躇なく打つ」という考え方が根づいている。こうした常識にとらわれない施策で社員のモチベーションを向上させることによって、組織力やスピード感を醸成してきたのだ。
その最たる取り組みが2021年10月から開始した「週休3日制」の試験導入だ。一部のグローバル企業が導入を始めている週休3日制だが、その考え方には主に3通りある。1つ目は、週休3日にする代わりに給料も下げるコストカットの一環という考え方。2つ目はフレックス制度の延長で、1日の勤務時間を自由にすることで、トータルの労働時間を変えずに働き方を調整する考え方。3つ目は、給与も1日の労働時間も変えずに週休3日にするという考え方。同社が採用するのは、最後の考え方である。
同社は新型コロナウイルスの感染拡大で定着したリモートワークのよさを生かし、出社と両立させるハイブリッド型の新たな働き方を目指している。副業も推奨しており、従業員に新たに1日の休みを提供することで、個々の成長とウェルネスにつなげてほしいとの願いがあるという。
「そもそも週休2日は昭和の時代に生まれた慣習です。当時と比べテクノロジーが格段に進化しているのに、いまも同じでいいのでしょうか」
週休3日制を導入した結果、同じ業務量を週4日でこなすために、皆が業務改善を考えるようになったと、佐田は続ける。その結果、例えば「社員の業務状況を把握できていない管理職がいる」といったさまざまな課題が浮き彫りになり、改善策を話し合い、作業効率の向上へとつながっていったという。
「もともとベンチャー企業は、社員がそれぞれ自由にプレーしてしまう傾向があるのですが、こうした時間の縛りを設けたことで、お互いの意識的なコミュニケーションが強化されました」
また、週休3日制の導入は、社員の思考の整理にもつながっている。社員に継続的なアンケートをとり、例えば「自分が経営者としてこの制度を導入するとしたら、社員に何を求めるか」という質問をした。すると「ただ会社にいるのではなくて、成果をしっかり出してほしい」というような回答が多かったという。
「アンケートではほかに『仕事の質を上げてほしい』『休日をビジネスの創出や自己研さんにつなげてほしい』など、ポジティブな意見がたくさん出ました」
社員が経営者の視点に立ち自問自答することで、自分のあるべき姿が見えるようになったのだ。
霞ヶ関キャピタルは、2021年12月にヘルスケア事業推進部を立ち上げた。高齢化が加速度的に進むなかで、介護施設や医療施設の増設は喫緊の課題だからだ。「その課題を、価値へ。」を経営理念に掲げる同社は、今後も社会課題に着目し、変化をいとわずに成長を続ける。
「社内では、常に変化を起こす側に回ろうと強調しています。振り回される側では受け身なので、何かを生み出すのが難しい。自ら変化を起こすことで、新しいビジネスや文化が生まれるのです」
冷凍冷蔵倉庫の開発で社会課題を解決
2021年10月、霞ヶ関キャピタルは冷凍冷蔵倉庫の開発を目的に「ロジフラッグ・デベロプメント」を設立。その後、12月に三菱HCキャピタルによる株式取得が行われ、現在は、霞ヶ関キャピタルが株式の66%を保有し、三菱HCキャピタルが34%を保有する。冷凍食品の消費増加による冷凍冷蔵倉庫の需要拡大に応えるとともに、2030年に予定されるフロン規制にも対応する。霞ヶ関キャピタルが有する物流施設開発のノウハウを生かし、省人化・省力化、効率化を実現する自動倉庫によって環境保全を推進。人手不足など物流業界が抱える課題の解決に資する物流施設を開発。今後3年間で総事業費2,000億円規模の物流施設の新設を目指す。
佐田健介◎霞ヶ関キャピタル 執行役員 経営管理本部長。流通業、コンサルティング業を経て2006年伊藤忠商事に入社。再生可能エネルギー、鉱産資源分野での事業開発、トレーディング、事業投資、事業会社管理等に携わる。2018年、霞ヶ関キャピタル入社。
霞ヶ関キャピタル
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