「これ以上、心配しようがない」と思えるまで考え抜く
そして、このときの訓練が、CEOになってからの私をおおいに助けてくれました。
なぜなら、リーダーシップを発揮して改革を推し進めようとすれば、社内には抵抗勢力が立ちはだかるのが常だからです。不用意にコトを進めれば、次々とカベにぶつかる。その結果、改革に膨大な労力と時間を注がざるを得なくなってしまうのです。改革がとん挫してしまうこともあるでしょう。
そのような事態を避けるためには、「先回り」する力が不可欠。先回りして、関係者に納得してもらいながらコトを進めることができなければならないのです。「これを改革しようとすれば、現場で何が起きるだろうか」と何十手も先まで読んで、先手先手で準備を進める。そのような対応を積み重ねることで、周囲が「このリーダーは先見性がある」と認めてくれたとき、「あのリーダーが改革しようとしているのだから、協力したほうがいい」という認識が組織に浸透。不要な軋轢を避け、よりスムースに改革を進める土壌が育まれるのです。
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その意味では、ときにヒロイックに報じられる、社内の軋轢を“剛腕”で乗り切って「大改革」を行ったとされるリーダーは、もしかすると、「先見性」に欠けるがために、その改革を成し遂げるためには避けられない軋轢ではなく、避けることができた“不要な軋轢”を起こしただけなのかもしれない。その可能性を考えてみる必要があると私は考えています。軋轢を回避して「大改革」をスムースに成し遂げるリーダーは目立ちませんが、それは「先手、先手」を打つ能力に長けているからなのかもしれない。派手な報道に惑わされず、一見「何もしていない」ように見えるリーダーの手腕に目を凝らす必要があると思うのです。
ともあれ、「先」を見通す力こそが、リーダーシップの重要な要件です。考えてみれば、当然のことです。リーダーとは、メンバーを導く者です。誰よりもしっかりと「先」を見通すことができなければ、リーダーが務まるはずがないからです。
では、この能力を磨き上げられるのは、どのような人物か?
心配性な人物です。なぜなら、「これをすれば、何か悪いことが起きるのではないか?」と心配するからこそ、誰よりも「先」を見通そうと努力するからです。そして、「これ以上、心配のしようがない」と思えるまで、考えうる限りの手立てを講じる。こうした人物こそ、優れたリーダーになる可能性を秘めているのです。