ビジネス

2022.07.14 15:15

二流のリーダーは剛腕を振るい、一流は人知れず先手を打つ

石井節子
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優れたリーダーは、常に「先回り」している


学んだことはたくさんあります。

そのひとつが、優れたリーダーは、常に「先の先の先」まで見通しているということです。将棋の素人は2手先、3手先を読むのも一苦労ですが、プロの棋士は何十手も先を読むといいます。それに近いかもしれません。

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Getty Images

家入さんは、仕事において「ある状況」が生じたときに、社内外にどのような影響が及ぶかを瞬時に、かつ緻密にイメージしていました。そして、影響が及ぶ関係者に対する「打ち手」を検討。物事をスムースに進めるために、常に「先回り」をしていたのです。

しかし、私にいちいち細かい指示などはしてくれません。

当然のことです。家入さんは、ファイアストンの買収という重要案件のみならず、会社のあらゆる問題について意思決定をするために、365日24時間深く深く考え続けているのですから、私に細かい指示をする時間など無駄。そのくらいのことを自分の頭で考えて対応できないのならば、私が、社長スタッフとして能力不足ということなのです。

ところが、秘書課長になった当初の私は“将棋の素人”に近かったですから、家入さんから「あれはどうなった?」「この件の会議はいつだ?」と質問が飛び、「何のことでしょうか……」とキョトンとしてしまうことが多かった。もちろん、家入さんは機嫌を損ねます。厳しい言葉を頂戴したことも一度や二度ではありませんでした。

「先回り」するから、主導権を握ることができる


まさに、オン・ザ・ジョブ・トレーニング。

先の先の先を読んで行動する上司に貢献するためには、上司のさらに「先」を行かなければならない。指示される仕事をこなしたところで、「プラス・マイナス・ゼロ」の評価にしかなりません。万一、「あれはどうなった?」などと聞かれようものなら、「お前は仕事をしていない」「役に立っていない」ということなのです。だから、いや応なしに、「もっと先を読んで、しかるべき手を打っていかなければ……」という意識を植え付けられました。

たとえば、ファイアストンとの交渉過程において、なんらかの問題が浮上したら、その問題の軽重を判断し、必要であれば、「関係役員の誰それとの会議をセッティングしましょうか」と社長に提言する。あるいは、取締役会にかけるべき案件については、そのタイミングに気をつけつつ、やり方も含めて社長に提言する。これは当たり前のことですが、現実にはそう簡単ではありません。というのは、ファイアストン買収のような案件では、絶対に外部に漏洩してはならない極秘事項が多いために、社長としては情報の取り扱いにかなり神経質になっているからです。

私が取締役会の開催を進言すると、「今これを取締役会にかけなきゃならないのか?」と反撃を食らうことも一度や二度ではありませんでした。当時、約30人の役員がいましたから社長の懸念も理解できましたが、「ここが踏ん張りどころ」と負けずに言い返したものです。必要な局面では、あえて上司に盾突くのも「脇を固める者」の大事な役割なのです。

こうして、社長が考えているよりも、さらに「一手先」を読む努力をしているうちに、秘書課長として一人前の仕事ができるようになってきたような気がしたものです。
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