こう語るのは、アマゾン ギフトカードジャパンでかつて"カリスマ営業"と呼ばれた浅見周平氏だ。彼がとりつけた契約で最も印象的なのは、なんといっても大阪ガスとのディールだろう。
「大阪ガスの『電気スタイルプランP』に切り替えれば、Amazonプライムの年会費4900円を、スタイルプランPの契約期間中、大阪ガスが負担し続ける」という斬新なこのサービスは、ガス会社という公益事業体と、Eコマースの雄アマゾンの意外な縁組としても大きな話題となった。
現在は「TikTok For Business Japan」でデジタルソリューションの拡販に努めながら、現役営業マンとして活躍する浅見氏に、営業に対する理念や信念を聞いた。
「船」にさえ乗れれば、そこから先は「失敗しても当たり前、成功したら男前」
まずは営業活動をする際、「物を売る」という気持ちは一切不要だと思います。話をするターゲット企業は、「売り先」ではなくあくまでもパートナー。先方企業の窓口になってくれる人とは、ともに新しいソリューションを生み出す戦友であり、同じ釜の飯を食うチームメイトである、という意識を相互に醸成することが必須です。
そして、プロジェクトを拡大、推進する際、自社の他部門を案件全体のポートフォリオに組み込む際は、「今回は泣いてくれ、次には返すから」などではなく「今ここにある案件」でまずは損をさせない、必ずすべての関係者にとって「ウィン」が積み重なる形で、を意識する。
また、大阪ガスとの案件のように前例のない契約案件への挑戦の場合、完璧なシミュレーションの作成は難しい。そんな場合、社内外の経営層を説得する際は、不測の事態が起きてもフレキシブルに対応可能な体制を構築してあること、「ともに汗をかく」という姿勢を崩さないこと、をアピールし続けることがなによりも大切だと思います。
ただ、同じ船に乗った仲間、お互いの強みを活かし助け合えるチームを形成さえできれば、後は、精神論的には「失敗しても当たり前、成功したら男前」くらいの気持ちで進めていけばいい、と思いますけれどね。
社内を巻き込む時は、「KPIなんぼ?」を聞いて回る
営業の仕事をしていると、社内の他部署を「巻き込む」必要が出てくるシーンが多々あります。私の場合は、自身が運営しているコミュニティー(アマゾン時代だとたとえば「野球部」の部員)から「つて」をたどって、どの部署で誰が裁量権を持っているのかを聞いたりすることもあります。そして、1人1人に質問、説明しに行きます。
そんな時、彼らに聞くのはズバリ、「KPIなんぼですか?」。たとえば、各々の年間KPIのうち20%くらいをカバーできることを証明すれば本気で参画してくれるだろう、という前提で質問するんです。そして、そこを、交渉先にコミットしてもらう。そんなふうに、社外取引先と自分の所属している組織とを行ったり来たりしながら、話し合いを重ねるのです。
営業活動のプロセスではついつい社外取引先にばかり目が行き、自分の属している組織のことは二の次になりがちですが、身内を巻き込めてナンボ、ということは本当に多い。そんな時、「社外と交渉をしている自分」にばかりフォーカスせず、「援護射撃してほしい、ともにステークホルダーになってほしい」社内担当者の立場になって、「彼らの利益から逆算」して提案、説得をする。このことはぜひ、お勧めしたいと思います。
ターゲットのリストアップは「TAM/SAM/SOM」で
少し具体的な話をしましょう。いわゆる「営業」プロセスでいえば、「ターゲット企業を絞り込む」ことがまず先決です。私は、オーソドックスといえばそうなのですが、以下のように数字でターゲット候補をリストアップし、数字の目標も定めます。
まず、毎年1月に『業界地図』が出たら、全業界における「トップ10〜20企業」を見ます。そして、「TAM/SAM/SOM」※注 を活用し、そのトップ10〜20の企業のプロモーション予算を把握し、各企業ごとのホワイトスペース(新しいビジネスモデルでなければ成功しえない事業領域)を算出します。その上で、自らが拡販するプロダクトやサービスとの親和性を考慮に入れ、優先順位のついたアタックリストを作成します。
※注:「TAM」とは「Total Addressable Market」の略、「ある市場の中での、該当商品・サービスの総需要」のこと。「総市場」。「SAM」とは「Serviceable Available Market」の略。「TAMの中でターゲティングした部分の需要」のこと、「ターゲット市場」。「SOM」とは「Serviceable Obtainable Market」の略。「実際に自社商品・サービスでターゲット市場に参入した場合に獲得し得る市場規模」のこと、「自社市場」。