日本のみならず世界中のビジネスシーンで、ルールチェンジが進行している。その状況下で、みずほ銀行は「日本の起業家ランキング」のIT部門とサステナブル部門において、スタートアップ2社「カンリー」「サステナブル・ラボ」に<みずほ賞>栄冠を授与した。
今回の「Born Global Rising Stars」は、その2社とみずほ銀行によるパネルディスカッションである(MC/モデレーター:経済キャスター・瀧口友里奈)。
ステージ冒頭は、賞設立の理由について、約2,500社のスタートアップを訪問し、多くのスタートアップの成長を支援してきたみずほ銀行 執行理事 リテール・事業法人部門副部門長 大櫃直人(以下、大櫃)の言葉から始まった。
「イノベーティブであること、経済的・社会的インパクトのある事業を条件に、スタートアップ支援の一環として賞を設立しました。なぜならどんなに画期的なサービス、プロダクト、テクノロジー、ビジネスモデルをもっていたとしても、それだけでスタートアップが世の中に受け入れられるわけではないからです。
彼らの最大の課題は、信用力と実績のなさ。メガバンクとしては、そうしたスタートアップに賞を授けることで信用につなげることができればという思いから、この賞は開設されました」
「スピード感をもつ企業にとっては、グローバルでチャンスが訪れているタイミング」と大櫃は語った。
みずほ銀行は今回「カンリー」「サステナブル・ラボ」のスタートアップ2社のどこを評価したのだろうか。
Googleマップ、HP、SNSなどに点在する店舗情報を一括変更できるクラウドシステム「Canly(カンリー)」
IT部門を受賞したのは「カンリー」。Googleマップ、Facebook、ホームページ、Twitterなどさまざまな媒体に散らばっている飲食店・小売店などの店舗情報を一括管理するクラウドシステムを開発した。選出理由を大櫃が語る。
「飲食店・小売店の課題解決をDXの力で実現した点を評価しました。パンデミックで店舗が打撃を受けているなか、1年で1万5,000店舗に有料契約にて導入を実現したのも、ニーズの証明だと言えます」
カンリー 代表取締役Co-CEO 辰巳 衛(以下、辰巳)は受賞の喜びを述べつつ、昨年夏のコロナ禍のさなかで店舗情報一括管理サービス「Canly」をローンチした理由を説明した。
辰巳は「クラウド上で『カンリー』を使えば、1度の変更で全媒体の情報が書き換わります」と説明
「当初は商社マンである私と、銀行マンの友人の共同代表で、宴会幹事代行サービス事業を開始しましたが、コロナ禍で需要が消え、倒産危機に陥りました。しかし事業を展開するなかで、各店舗から“ぐるなび、食べログなど複数のグルメサイトの情報管理が大変だ”という話は聞いていたので、それら情報を一括管理できるシステムがあればよいのではないかと、開発に乗り出したのです」
例えば緊急事態宣言の影響で営業時間短縮の告知を行う際、企業は、公式サイト、グルメサイト、SNSなどに点在している店舗情報を、それぞれ書き換える必要があった。もしチェーン展開して1,000店舗を抱えていると、1,000店舗分の情報更新×媒体数の手間が生じることになる。ただでさえ人手不足の業界で、その手間はとてつもないムダに見えたのだという。
「他にもメニューや商品ラインナップなどさまざまなケースで店舗情報の更新業務が生じるわけですが、クラウド上で『Canly』を使えば、1度の作業で全媒体の情報が書き換わります。それにより店舗は接客などの基本業務や、クリエイティブな分野に人を振り分けることが可能になるのです」
辰巳は、本サービスは飲食業界の需要が中心になると踏んでいたが、蓋を開けてみるとメガネショップ、ホームセンター、ドラッグストア、アパレルも含めたあらゆる業界からの支持を受け、驚いたという。
企業のESG、SDGs度合いを見える化する「サステナブル・ラボ」
サステナビリティ部門で受賞したのは「サステナブル・ラボ」。同社代表取締役 CEO 平瀬錬司(以下、平瀬)は受賞に際し、「ついに時代が変わった」と、感動したという。
「非財務データの研究・開発という私たちのマニアックな事業が、日本を代表するメガバンクから評価をいただいた。2、3年前なら考えられないことです」
「『テラストβ』はこれまでに定量的に測れなかったESG/SDGsなどの非財務データをAIで解析、スコアリングしている」と平瀬は説明する
平瀬が2021年2月にテストオープンしたのは、企業のESG、SDGs施策をさまざまなビッグデータとAIをもとに定量化し、可視化するオンラインデータバンク「テラストβ」である。その事業の画期性について、大櫃が評価の理由を語る。
「ESG/SDGsが叫ばれる世の中ですが、実現指標が不明で、どうしてもイメージ先行の施策にならざるを得ない現実がありました。大企業のなかでも、どのように始めればよいのかわからないという声が多かったのです。
『テラストβ』はそうした目に見えないESG/SDGs指標をスコアリングする画期的なサービスです。さらに誰もがその数値を利用できることで、データの民主化も果たしています」
この革新的なサービスの着想について、平瀬は次のように述べている。
「人類はいま、金融資本主義の転換期を迎えています。経済効率だけを求めた結果としての環境負荷、貧困問題など、さまざまな歪みが一気に噴出しており、いまこそゲームチェンジが起きなくてはならないタイミングに突入しています。つまりサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が求められているのです。我々のミッションは、SDGs/ESG評価を民主化していくことです。SDGs/ESG評価を一部の専門家だけのものにするのではなく、究極的には意思決定に携わるあらゆるビジネスパーソンが、データ分析・評価モデルの構築をスピーディーかつ、カジュアルにできる世界にする必要があります。SXを本流にし、それぞれにとっての〈良い企業〉を照らしていくため、そのためのインフラを構築・展開していきます」
SX後の世界では、経済効率(強さ)だけでなく、社会効率・環境効率(優しさ)のよさも重視する。あらゆる銀行、投資家、人材、顧客は、この新しいルールで企業を評価するようになり、真に「強く優しい」企業が評価される世の中になると言う。
グローバルに打って出るための資質について
もちろんゲームチェンジは日本国内にとどまるものではない。「カンリー」、「サステナブル・ラボ」の両社が世界に“打って出る”ために、経営者はどうあるべきか、大櫃はこう言葉を贈る。
「おふた方には、非常に強い情熱を感じます。今後両社はグローバルの未来を担う企業となっていくことでしょう。そのときに忘れないでほしいのが、企業のステージごとに経営者に求められる資質は変化するということです。
シード期は社長の情熱がすべてです。しかし次のステージではサービス、プロダクトが世の中に受け入れられるかどうかのフェーズに入ります。その段階では、いかに組織を構築し、たくさんの人を巻き込めるかが経営者には問われます。
そしてその先に、グローバル進出があります。そこではより高い視座での判断が求められることになります。企業の成長とともに、経営者としても未来へ向けて脱皮していく必要があるのです」
世界への挑戦について問われた辰巳は、すでに海外での実証実験は進行しており、「世界に挑む自分の背中を見せることで後進の若い人々に勇気を与えたい」と自信を見せる。
一方平瀬は「テラストβ」を「リージョンに左右されず、クロスボーダーしやすいサービス」と表現し、グローバルのゲームチェンジを促す起爆剤になりたいと意気込みを語った。
そうした彼らの言葉を聞きながら、最後に大櫃がまとめてディスカッションは締め括られた。
「ITバブルの崩壊、リーマンショック、コロナ禍など、世の中の課題が顕在化する局面が、近年数多く巻き起こっています。しかしそのなかでGoogle、Amazon、Uber、Zoomなど飛躍的な成長を遂げた起業も少なくありません。
見えてくるのは、"スピード感をもった課題解決"。いまの世の中を引っ張っている企業に不可欠の要素です。そうした企業にとっては、グローバルでチャンスが訪れているタイミングなのです。
「カンリー」「サステナブル・ラボ」はともに、スピード感とともに日本の産業の新陳代謝をはかり、世界経済を元気にする可能性を秘めていると考えます。みずほ銀行としてもそうした彼らを今後もしっかりサポートしていきたいですね」
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辰巳 衛(たつみ・まもる)◎早稲田大学理工学部卒。2015年双日に入社、商社マンとして与信・事業投資審査・国内外の空港M&Aなどに携わる。2017年米国公認会計士試験合格。2018年カンリーを25歳で共同創業、代表取締役Co-CEOに就任。
平瀬 錬司(ひらせ・れんじ)◎大阪大学理学部卒。在学中からサステナブル領域のベンチャービジネスに環境エンジニアとして携わる。京都大学ESG研究会講師。2019年サステナブル・ラボを立ち上げ、代表取締役 CEOに就任。
大櫃直人(おおひつ・なおと)◎1988年に関西学院大学卒業後、みずほ銀行入行。2016年、イノベーション企業支援部 部長に就任、18年に執行役員、21年に執行理事 リテール・事業法人部門副部門長に就任。これまで約2,500社のスタートアップ成長企業を訪問。