創業者のグッチオ・グッチが1953年に死去すると、息子であるアルド・グッチとロドルフォ・グッチが中心となり、さまざまなファッションアイテムへと進出、事業の多角化を図っていく。しかし、1986年にアルドが脱税で収監されると、一族の内紛が表面化し、ブランドは危機に陥った。
その後、ロドルフォの息子であるマウリツィオ・グッチが中心となって立て直しを図るが、結局、彼がアラブ系の投資グループにすべての株を売却して、これによってグッチ家による一族経営は終焉を告げた。
ファッション業界版「ゴッドファーザー」
映画「ハウス・オブ・グッチ」は、このグッチ家の衰微に深く関与したマウリツィオの妻であったパトリツィア・レッジャーニ・グッチにスポットを当てた作品だ。最後は殺人にまで至る彼女のアグレッシブで野心に満ちた人生を描いている。
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原作は、2001年に出版されたサラ・ゲイ・フォーデンによるノンフィクション「The House of Gucci : A Sensational Story of Murder , Madness , Glamour and Greed」(邦題「ハウス・オブ・グッチ」)。あえて英題を掲げたのは、サブタイトルに連ねられた「殺人、狂気、魅惑、欲望」という言葉が、まさに映画「ハウス・オブ・グッチ」の内容をそのまま表現するものだからだ。
1978年のミラノ。真っ赤なスポーツカーのハンドルを握り、パトリツィア(レディー・ガガ)が颯爽と登場するところから物語は始まる。パトリツィアの父親は運送会社を経営しており、彼女は経理を担当していた。けっして上品とは言えない職場のドライバーたちからはいつも好奇な視線を浴びていた。
パトリツィアは友人に誘われて出かけたパーティーでマウリツィオ(アダム・ドライバー)と出会う。彼が名乗り、グッチ家の人間であることを知るとパトリツィアの表情が変わる。パトリツィアは弁護士を目指していたマウリツィオと偶然に書店で再会したかのように装い、別れ際に自分の電話番号を教える。
このとき、マウリツィオの乗るバイクのフロントグラスに、ルージュで自分の番号を書きつけるパトリツィアの仕草がとても魅力的だ。マウリツィオが彼女に惹かれていくきっかけとしては、実に印象的なエピソードとなっている。
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パトリツィアの積極的なアプローチにマウリツィオも応え、2人は結婚へと突き進む。しかしマウリツィオの父であるロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)は、パトリツィアが財産目的で息子に近づいていると判断し、2人の結婚に反対する。家を出たマウリツィオは、パトリツィアと一緒に運送会社で働くことになるのだが……。