監督であるリドリー・スコットは、「アリー/スター誕生」を観て以来、彼女には関心を持っており、今回も自らレディー・ガガに「ハウス・オブ・グッチ」への出演を直接アプローチしたという。
「恐ろしい才能を持った人だと思った。エンターテイナーとしても、歌手としても、自身のショーのプロデューサーや脚本家としても、クリエイティビティの塊だ。実際に会ってみて、すぐに気に入った」
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こう語るスコット監督だが、プロデューサーの1人でもあるケヴィン・ウォルシュも、パトリツィアを演じるのは彼女しかいないと確信していたという。そして、なにより役づくりに対する姿勢についても次のように絶賛している。
「パトリツィア役について驚くほどのリサーチをしてきてくれて、初日から全力で臨んでくれた。ストーリーが進むにつれて、(マウリツィオを)溺愛している様子から、愛情あふれる様子、何かに突き動かされる様子や、確信を持ちながらもやや猟奇的な様子など、パトリツィアのさまざまな側面を絶妙に演じ分けてくれた」
実際に作品中で、レディー・カガはさまざまな変化に富んだ演技を見せている。野心に満ちて自信たっぷりに振る舞うパトリツィアも真に迫っているが、むしろマウリツィオとの関係がぎくしゃくしてきたときの「落差」を感じさせる彼女の表情も深く記憶に残る。
前出のように「ハウス・オブ・グッチ」は、今年84歳のリドリー・スコットがメガホンをとっている。彼はこのスキャンダラスな一族の物語を、「ブレードランナー」(1982年)や「グラディエーター」(2000年)で見せた持ち前の鋭いビジュアルセンスで美しい映像に仕上げている。
また作品中では1970年代から90年代にかけてのファッションや車や風景なども忠実に再現されており、特にレディー・ガガが纏うグッチのアーカイブファッションは、現在のグッチ・ブランドの協力を得て選ばれている。また公開にあたっては、グッチ家からは映画の内容に当惑しているという声明も出されたようだが、実に双方の対照的な対応とも言える。
『ハウス・オブ・グッチ』/ 配給:東宝東和 /(c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
ちなみに日本に暮らす人間として気になるシーンが1つあった。グッチを統括する兄のアルドが共同経営者である弟のロドルフォと会うシーンだ。いきなりアルドは日本語で挨拶する。そして事業の拡大をめざす彼が弟との会話のなかで「ゴテンバ」とか「モール」という言葉を発するのだ。
御殿場に巨大なショッピングモールである「御殿場プレミアム・アウトレット」ができたのは2000年のこと。どう考えても時代が合わない。作品には「実話に基づく物語」と断りも入っているが、実際に時系列の違いや登場人物の整理などかなり脚色もされている。ここは日本のファンに向けた粋なサービスだと考えておくべきだろうか。
連載:シネマ未来鏡
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