「ハウス・オブ・グッチ」が描くハイブランドの内幕劇 後継者の妻と一族の確執

2022年1月14日(金)より全国公開 / (c) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.


映画「ハウス・オブ・グッチ」は、まずパトリツィアとマウリツィオのラブストーリーとして描かれていく。交際に積極的なパトリツィアに弁護士志望で物静かなマウリツィオ、対照的な2人だったが、グッチの経営者でもあるロドルフォの結婚への反対が2人を強く結びつける。

やがてロドルフォの兄で、ブランドの積極経営を推し進めるアルド(アル・パチーノ)の引きで、マウリツィオはグッチの経営に参画することになるのだが、このあたりから物語は、欲望と背信が渦巻くビジネスストーリーへと変化していく。そしてその陰には、夫マウリツィオを介してグッチに君臨しようとするパトリツィアの野望も見え隠れしていく。

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「ハウス・オブ・グッチ」では、グッチというファミリービジネスに「異分子」であるパトリツィアがコミットすることで、一族経営が揺らいでいく様子が描かれている。その骨肉の物語は、ファッション業界に舞台を移した「ゴッドファーザー」(1972年、フランシス・フォード・コッポラ監督)のようにも思えてくる。

「ゴッドファーザー」でマフィアのコルレオーネ家の「異分子」であった次男マイケルを演じたアル・パチーノが、グッチ家を統べるアルド・グッチを演じているのも、両作品を並べて思い浮かべてしまう理由かもしれない。

さらに「ハウス・オブ・グッチ」は、ブランドビジネスが、ひと握りの人間が支配する単体での経営から、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)やリシュモンなどの巨大なファッション複合企業体へと移行していく歴史的過程をも結果的に描いている。

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作品中でも触れられているが、実際にグッチはマウリツィオ時代に起用されたデザイナーのトム・フォードによってイメージが一新され、再び人気ブランドとして復活。現在は、度重なる買収によって、フランスのコングロマリットであるケリングの傘下となり、世界に冠たるハイブランドとしての地位を確立している。

対照的なグッチ家と現在のブランド


映画「ハウス・オブ・グッチ」のさらなる見どころとしては、物語の主役であるパトリツィアを演じたレディー・カガの迫真の演技が挙げられる。レディー・カガは、グラミー賞に12度も輝いた音楽業界のスーパースターだが、2018年に「アリー/スター誕生」で映画初主演を果たすと、アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされた。

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「アリー/スター誕生」の愛される役柄とはまったく異なる、狡猾で悪女的な「ハウス・オブ・グッチ」のパトリツィア役を演じることになったレディー・ガガだったが、演技に対してもアーティストとしての真摯な取り組みで臨み、この複雑なキャラクターを完璧に演じ切っている。
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文=稲垣伸寿

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