才人ジア・ジン面目躍如の作品
「こんにちは、私のお母さん」の監督を務めたのは、作品のなかで主役のジア・シャオリンも演じているジア・リンだ。彼女は脚本も担当しており、中国でも人気のコメディエンヌであるジアが、自ら経験した母との死別を扱ったテレビ番組用のコントから書き進めたものだ。母とのことを映画化しようと決めたときのことを、ジアは次のように語っている。
「2015年の旧正月に、例年と同じように母のために紙銭(死者へ贈る偽のお札)を燃やしていたとき、悲しみのあまり自分の感情がどうにもコントロールできなくなってしまった。どうして自分は母の傍にいないんだろうと。翌年、あのコントを披露して気持ちが解放された感じがした。完全とは言えないが、ある程度、自分の気持ちを鎮めることができた」
そこからコメディエンヌとしての仕事をセーブしながら、ジアは3年をかけて脚本を煮詰めて完成させ、自ら監督もして、主演も果たす。「世の中には間に合わないことがある。その最たるものが親孝行」だと語るジアだが、「こんにちは、私のお母さん」に込めた思いには並々ならぬものがあるはずだ。
そのジアの強い意志は作品に見事に結実している。1982年生まれ、当年とって39歳のジア・リンが、作品中では高校生を演じているわけだが、コメディエンヌとしての才能を余すところなく発揮して、ハートウォームな笑いを振り撒いていく。彼女が劇中で披露する「本職」の漫才のシーンは圧巻だ。
(c)2021 BEIJING JINGXI CULTURE & TOURISM CO., LTD. All rights reserved.
とはいえ、ところどころに泣かせるペーソスも織り込みながら、タイムスリップして母を幸せにするという「親孝行」を演じている。その笑いとペーソスの配分は実に心憎い。若き母であるリ・ホワンインを演じるチャン・シャオフェイとも堂々と渡りあっている。監督、脚本、主演とまさに才人とも言えるジア・ジンの面目躍如となる作品だ。
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物語の終盤では意外な展開も用意されており、そこからこれまで見えていた景色が一気に変わるというサプライズもあり、タイムスリップという設定を見事に活かした作品となっている。
原題は「你好、李煥英」、これは「こんにちは、リ・ホワンイン」ということで、「李煥英」という名前は役名でもあるが、ジア・リンの亡き母の名前でもある。「母のことを語りたかっただけでなく、李煥英という1人の女性のことも語りたかった」とジア・リンはタイトルの由来については話している。
ちなみに「こんにちは、私のお母さん」は、中国では昨年の2月、旧正月興行の作品として封切られた。人々の気持ちが家族へと帰していくその時期に公開されたことも大ヒットの原動力となっているかもしれない。日本でも正月明けの公開作品となるが、人々の心に軽やかに響くハートフルコメディになるのではないだろうか。
連載:シネマ未来鏡
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