伸長著しい中国の映画市場で大ヒット。「こんにちは、私のお母さん」

「こんにちは、私のお母さん」 2022年1月7日(金)全国ロードショー /(c)2021 BEIJING JINGXI CULTURE & TOURISM CO., LTD. All rights reserved.

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中国の映画市場は、2020年に前年まで首位であった北米市場(アメリカ+カナダ)を抜いて世界一となった。もちろんコロナ禍によるハリウッド作品の上映延期や映画館の閉鎖もあったが、ここ数年、中国の映画市場における興行収入の伸びには目覚ましいものがあった。

そもそも中国は14億超の人口を抱え、映画館のスクリーン数も最新のデータでは8万を超えている。アメリカのスクリーン数が約4万、日本のそれが約3600なので、規模的にも他を圧倒している。また2017年にアメリカを抑えてスクリーン数で世界のトップに立ったが、この4年余りで倍増している。

その伸長著しい中国の映画市場で、昨年大きな話題となったのが、「こんにちは、私のお母さん」だ。観客動員では1億2100万人を数え、約960億円の興行収入を叩き出しており、2021年10月の時点では、全世界でも興行収入第1位に輝いた。

1981年の中国にタイムスリップ


「こんにちは、私のお母さん」は、ジャンルで言えばコメディだ。しかも主人公がタイムスリップして過去に現れ、苦労ばかりかけていた母の人生を幸せなものにするため奮闘するというストーリーだ。

母の人生を変えることは、イコール自分の運命をも左右することになる。いわゆるタイムトラベルにおけるタイムパラドックス(過去を改変することで、現在の状況も一変する)を孕んだ内容ではあるが、そのあたりも作品に妙味を与えている。

主人公であるジア・シャオリン(ジア・リン)の大学合格パーティーが開かれていた。親族や知人たちが集まって盛り上がる祝いの席だったが、実はジアは合格通知を偽造していて、嘘をついていたのだ。そのことが発覚して、会場の雰囲気は一転する。

パーティーからの帰途、迷惑ばかりかけている母のリ・ホワンイン(リウ・ジア)に謝罪するジアだったが、母はやさしく娘を許し、むしろ慰めてもくれた。自転車に2人乗りして家へと急ぐ途中、ジアと母は自動車事故に遭ってしまう。病院で意識のない母を前にして、自分を責め続けるジアだったが、いつのまにか眠ってしまっていた。

ジアが再び目を覚ますと、そこは1981年。ジアは事故のときと同じように20年前の若い母の上(チャン・シャオフェイ)に覆い被さっていた。まだ結婚前の若かりし頃の母と「再会」したジアだったが、母は彼女を自分の従姉妹だと勘違いする。これは好機とばかりに、ジアは苦労の多い母の人生を幸せなものにするため、一計を案じて行動に移すのだった。

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若い頃の母は工場で働いていた。ジアは「工場でいちばん最初にテレビを買う」「バレーボール大会で優勝する」など、彼女の希望を次々に叶えていく。そんななか、母に工場長の息子との縁談が持ち上がる。このまま金持ちの彼と結婚すれば、母は幸せな人生を歩めるかもしれない。しかし、それは自分が未来では存在しないことになる。悩みながらもジアは、母と工場長の息子との仲を取り持つのだったが……。

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主人公がタイムスリップする1981年の中国は、1978年より始まる鄧小平による改革開放政策が大きく進展した時代だ。急激な経済成長とともに人々の意識も解放され、1989年に天安門事件が起こるまでは明るい時代として人々の記憶に残されているにちがいない。

儒教文化の影響が残るなかで「親孝行」をテーマにした物語であることもさることながら、この1980年代への郷愁も、この作品が中国で大ヒットした裏側にはあるような気もする。作品中でも、そのあたりの雰囲気は忠実に描写されている。いまの中国の人たちにとって、懐かしい時代を知る手かがりともなる作品なのかもしれない。
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文=稲垣伸寿

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