キャリア・教育

2022.01.13 18:00

服の翻訳者。「洋品店」店主が辿り着いた安息の場所


「自分の好み」を優先して


彼は「就職氷河期」と呼ばれた時代に都内の大学を卒業、以後長い期間を、転職を繰り返す「ジョブ・ホッパー」として過ごしている。

「このお店を開くまで、5社ほどで働きました。かといって、いまの店を開くための準備だったわけでもないんですよね。あらがいながらも、流れ、流れてというか……。

服飾にかろうじて関係があるといえば、前職のレザー関連を扱っていた会社でしょうか。とはいえ、そこでも生産管理・営業のバックアップ部門にいて、販売をやっていたというわけではないんです」

こう他人事のように語る井本だが、そのジョブ・ホッパーを続けるなかで考えたのが、次のような決断だったという。

「長い間サラリーマンをやって気づいたのは、僕は圧倒的に組織のなかで働くのには向いていないんだなということでした(笑)。まわりの人に申し訳ないと思うくらい、勤め人としてのスキルや能力が足りず、追いつかなかったんです。

それで、この先、同じようにサラリーマンを続けていくことに限界を感じてしまって、他の道を探ろうと思ったのです。そもそも、いったい自分は何が好きで、何が楽しいのか。そして何をやればいいんだろうって考えたときの答えが『服』だったんです」

Euphonica(ユーフォニカ)

井本は、9年ほど前に、レザー関連会社を最後にキッパリ会社員の道をあきらめ、10代の頃から熱中していた服飾を扱う店を開くことにしたのだという。

思い切った決断のように見えるが、半分はもう勤め人は続けられないという背に腹はかえられぬ状況があり、半分は好きなことを仕事にするという前向きな思いが彼を支えていたようだ。
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文・写真=長井究衡

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