走っているときに音楽を聴くと、しんどい思いが和らげられることはわかったが、どんな音楽でもいいというわけではなさそうだ。
どんな音楽がどんな運動により効果的なのだろうか。
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一定したテンポのリズムが良い
「一般的に、音楽にはある一定のリズムがあって、それが繰り返されるのが特徴です。そういう意味で、音楽が良い効果を与えてくれるのは一定のテンポで体を動かすもの、先ほど言ったジョギングやウォーキングに加えて、サイクリングや水泳などが挙げられると思います」
一定のテンポで流れる音楽は、リズミカルに体を動かすという意味でも効果があるようだ。音楽に合わせていればペースを乱すことも防げるのではないだろうか。
「世の中にある音楽、クラシックやポップスなどさまざまなジャンルの音楽のテンポがどのぐらいかであるのかを調べた研究があって、私も体を動かしたくなるテンポはどのぐらいなのかを調べたことがあります。すると、個人差はあるものの、1分間に120拍の音楽が速すぎも遅すぎもなく、だいたいちょうどいいテンポだということがわかりました」
もちろん人によって歩いたり走ったりするペースは異なるので、120拍は平均値として捉えておいた方が良いだろう。まずは自分で120拍の音楽を聴きながら体を動かしてみて、心地よく感じるならOK、もっと速い・遅い方が良いと感じれば速い・遅いテンポの音楽を選ぶというように、基準として考えるのが良さそうだ。
「私はスポーツを専門的に研究しているわけではありませんが、たとえば疲れてくると動きのテンポが崩れてフォームが乱れるということがありますよね? それを抑止するために、常に一定のペースやフォームで同じように体を動かすのにも、音楽の効果があると言われています。劇的に不調を改善するというわけにはいかないかもしれませんが、フォームが崩れてしまってそれを立て直すために余分なエネルギーを使うのを防ぐといった意味でも、音楽の効果はあると言えるかも知れません」
やる気にさせる効果も?
河瀬氏は最近、音楽が人のモチベーションに与える効果についても、興味を持って研究しているという。
「運動は、した方が良いことはみんな分かっている。でも、しない人は多い。それはしんどくて楽しいと思えないからという面も大きいのではないでしょうか。そこに音楽が入る余地があるとしたら、ひょっとすると音楽によって、つらい運動がハッピーに感じられるんじゃないかと考えているんです。モチベーションがアップして、月1回だった運動が、月2回、3回になればいいなと思いながら研究をしています」
アスリートのインタビューなどを読んでいると、試合前のルーティンとして聴く曲が紹介されていたりする。ぜひ、自分にあった音楽を見つけて、運動効果アップにつなげてほしい。
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また河瀬氏によれば近年、孤独を癒したり、孤立した人の絆作りに音楽が役立つことも報告されているという。
生後何カ月かの小さな子どもを抱きかかえてThe BeatlesのTwist & Shoutに合わせて上下運動をすると、その子どもは一緒に動いた相手のために何かをしようとするのだそうだ。
音楽にはきっと、まだまだ不思議な効果が隠されている──。
河瀬諭◎神戸学院大学心理学部准教授。ヤマハ音楽研究所研究員。感性アナリティカ代表。