──今回のソファを手掛ける前から、障がいのある方とコミュニケーションをとる機会はありましたか?
脇坂:私の場合は勤めている会社でユニバーサルデザインを担当しているということもあり、多様性を意識したデザインは身近な存在ではありますが、実際にパラスポーツの競技者と会うことは今までありませんでした。ここまで自分たちが想像しているものとギャップがあるんだということをすごく感じましたね。話を聞くと、目から鱗のことがたくさんありました。
──どのような点でしょうか?
八田:例えば、ソファの座面。車いすからソファに乗り移るときに極力車いすでソファに近づきたいけれど、車輪が出っ張っているので、ソファの側面(脚が当たる箇所)が垂直になっていると車輪がぶつかって、ソファまでの距離が遠くなってしまうそうなんです。
そこで、ソファの側面を斜めにカットしてテーパー(傾斜している形状のこと)にすることで、車輪がうまく入り込むようにしました。そうすると、ソファに身体を近づけることができるようになるんです。
座面(通常脚が当たる箇所)を斜めにカットしたことで車いすの車輪が入り込みやすくなっている
脇坂:これは聞かないと分からないことでした。その後、リサーチをかねて駅のホームなどに設置されているソファを見に行ったところ、よく見たらソファの下の部分が傷ついているんですよ。車いすなどで擦った傷がついているんです。普段では気づかないことに気づくことができました。これはすごく大事なことで、日本だけではなくて世界にも伝えたいところだねと八田と話したのを覚えています。
──実際に座ってみたのですが、座面が柔らかすぎず、健常者にとっても硬さがちょうどいいなと思いました。こちらも何か工夫されているのでしょうか?
八田:車いすから乗り移るときに、座面に一度手をつくそうなんです。そのときに柔らかすぎると沈んでしまって、体を支えるのが大変だということで硬めにしました。
脇坂:「Band Sofa」はクッションの量を調整して、座面の硬さを決めました。実際にいろいろな方に何度も座っていただき、一番いい座り心地を検討してもらいました。健常者も障がいのある方もみんなが使いやすいようにバランス感をとっています。
モチベーションUPの源はモチーフに
──テーブル部分は、金・銀・銅のメダルや帯をモチーフにしたということですが、このアイデアはどのように生まれたのですか?
脇坂:元々メダルやバンド(帯)をモチーフにするつもりはなかったのですが、ヒアリングをする中で、車いすのサイズや人の体格の差があるので、角度を変えて会話できるようにしてほしい、ちょっと幅が狭いところがほしいなど、いろいろな要望があって。
また、多種多様な人が使うため、座る幅の違いや座り方の違いがあったので、自然と斜めのテーブルという設計になりました。パラアリーナの空間や壁のグラフィックのデザインとの調和も考慮していき、様々な用途や要望を取り入れていった結果、バンドをモチーフにするのが最適だという考えに行き着きました。
──メダルをモチーフにしたデザインを目にすれば、競技者にとってモチベーションも高まりますものね。
脇坂:ヒアリングのときにメダルが目標という話も聞いたので、自然とメダル帯がモチーフになりました。でも初期段階のデザインは、完成形とは全然違ったんですよ。最終的なデザインと見比べると、その要素がひとつも残っていないくらいです(笑)。いろいろな方にアドバイスをもらったり、ミーティングを繰り返して、どんどんブラッシュアップしていきました。