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2013年、日本代表に復帰した時の大久保嘉人(右) /photo by Getty Images Stuart Franklin - FIFA

記録と記憶に残る最強ストライカー、39歳の大久保嘉人が2021年、現役に別れを告げた。

川崎フロンターレ時代に前人未到の3シーズン連続得点王を獲得し、プロの第一歩を踏み出したセレッソ大阪に復帰した今シーズンも開幕直後からゴールを量産。J1歴代トップを独走する通算ゴール数を「191」まで伸ばした。それは身長170cm体重73kgの小さな身体に脈打たせる「野性」と「知性」、そしてピッチ上で意識してかぶってきた「仮面」が融合された数字でもあった。

大久保嘉人は、真顔で「お腹の底あたりから『よっしゃ』とか『来たぁ』と響いてくるんですよ」と言う。話を聞いたのは、川崎フロンターレに加入して1年目の2013年秋。開幕からゴールを量産し続け、それまで自己最多だったセレッソ大阪時代の03シーズンにあげた16ゴールをあっさり更新し、初の得点王獲得へ向けてラストスパートに入った時期だった。

彼の何が変わったのか、問いに対して返ってきた答えが「よっしゃ」であり「来たぁ」だった。心のなかで欲しいと念じていたパスを、相手ゴール前で味方が送ってくれる。その瞬間に響く自分への声だ。大久保はさらにこう続けた。

「『その瞬間』にシュートの選択肢がいろいろと浮かんでくる。ただ、選ぶ際にあれこれ悩んだらダメ。相手キーパーの位置やパスのスピード、高さを見極めて即決で打たないと」

当時、中村憲剛をはじめ、正確なパスを出せる選手が中盤にそろっていた川崎。たとえゴールにならずとも、すぐにチャンスが巡ってくる。理想的な循環に導かれたことは、予期せぬ副産物を産む事にもつながった。

「それまでミドルシュートはあまり打たなかったんです。どうせ入らないし、だったらパスをつないでゴール前までいった方が絶対にいい。でも、いまはミドルシュートを打つ前に弾道をイメージすると、ホントにその通りに飛んでいくんですよ」

相手ゴール前での決定率は上がり、ミドルシュートも打てる。川崎での日々を「プレースタイルが広がった」と位置づける大久保は、在籍4年半で84ゴールを積み重ねた。

この川崎時代と同じ感覚が21シーズンから復帰した、清武弘嗣をはじめ好パサーを擁する古巣セレッソでも蘇った。J2の東京ヴェルディで無得点だった20シーズンから一転して、開幕5試合で5ゴールを量産した大久保へメディアからこんな質問が飛んだ。

「調子がいいときに、例えば野球だと『ボールが止まって見える』と言いますが――」

鮮やかな復活を遂げた秘訣を探ろうとする質問に、大久保は悪戯小僧のような笑顔を浮かべながらこう答えている。

「シュートを打てば入りそうな気がする、という感じはありますね」

川崎やセレッソで発した、感覚的な言葉から伝わってくるのは「野性」であり「本能」。大久保自身も、こうした言葉で形容されるプレースタイルを否定しない。

文=藤江直人

サッカー
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