ここで決め手になったのが国民の感情だった。韓国大統領府高官は24日、韓国記者団に対し「夏前に(赦免論が)出た際、国民世論が良くないという話を申し上げた」と語った。今年1月、李洛淵元首相が朴槿恵氏と李明博氏の赦免論を提案した際、韓国の世論調査会社リアルメーターが1月6日付で発表した世論調査では、赦免に賛成が47.7%、反対が48.0%だった。朴槿恵氏については、何の権限もない知人を国政に介入させたことが、「不公平」「抜け駆け」を嫌う韓国の国民感情を刺激し、朴氏の赦免を嫌う世論も根強く残っていた。
元大統領府高官は「ところが、万が一、朴氏が収監中に死亡でもすれば、世論がどう動くかわからない。韓国人は不公平も嫌いだが、情にも流されやすい。場合によっては、文在寅政権と与党大統領候補の李在明氏に批判の矢が降り注ぐかもしれなかった」と語る。このため、「釈放するなら一刻も早いタイミングで」となり、健康状態に問題がない李明博氏は対象外になったようだ。
元高官は「李明博氏には大統領在任中、文在寅政権の関係者の多くが仕えた盧武鉉元大統領を捜査して自殺に追い込んだという恨みが残っている。横領と収賄に問われた罪も確信犯だったから、朴槿恵氏とは随分事情が異なる」とも語る。朴槿恵氏の場合、収賄には問われたものの、朴氏の個人口座にはまったく入金されていなかったことが明らかになっていた。元高官は「ただ、世間知らずだったというだけの話。李明博氏よりも同情を買いやすい素地があった」と指摘する。
韓国には、法律の上に立つ「国民情緒法」があるとされる。また、不幸な人には温かく接するべきだという文化もある。政治家はこれまで、こうした国民情緒法に従って、本当の法律を勝手に曲げてきた。文在寅大統領こそ、2016年秋から17年初めにかけ、ソウル中心部で毎週末に行われた、朴槿恵氏の弾劾を求めるロウソク集会の先頭に立った人物ではなかったか。
「法の上に政治がある、法よりも感情が優先する、という世界は欧米にはない。このままでは未来の韓国政治に禍根を残す。今回の赦免劇は、それを考える良い機会になったのではないか」。元高官はそう語った。
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