──「デザインの力を証明する」とミッションにも掲げられています。
デザインは本質的にはビジネスの広い範囲に影響を及ぼす、非常に価値の高いものです。
我々はそんなデザインの価値を証明するために、「仕様が決まったものを綺麗に作れば良い」という考え方ではなく、「デザインの産業自体を大きくする」仕事にフォーカスしてきました。
他にもグッドパッチは従来型のデザイン会社が取らない選択をし続けることでここまで成長してきました。
例えば「従業員を増やす」「外部資本を入れて上場を目指す」といったことは普通のデザイン会社はやりません。デザインの仕事は属人的で、個々人のセンスによって成り立っているというバイアスがあるからです。
しかし、マーケット全体を成長させ、デザイナーの市場価値を高めるという目的を達成するためには小さい規模でやっていても信用は勝ち取れません。上場を目指すことで影響力のある会社になることが重要だと考えたのです。
「真摯さ」でV字回復
──2つ目の「真摯さ」についてもお聞かせください。
グッドパッチは一度、従業員が100人を超えた辺りで組織崩壊を起こしたことがあります。離職率が2年連続で40%を超え、100人の組織なのに2年間で80人が辞めていくような時期があったのです。
そんな状況を立て直す原動力となったのが「真摯さ」でした。
組織崩壊の最中、面接に来てくれた人たちに対して「組織崩壊しています」という現実を包み隠すことなく正直に、「真摯さ」を持って伝えました。良いことよりもむしろ悪いことを強調するくらい、ありのままにお話したのです。
その「真摯さ」があったからこそ、そのタイミングで入社を決めてくれた人は覚悟を持って逃げずに会社に向き合ってくれました。そしてその後のV字回復を支えてくれたのです。
あの時、私が嘘を伝えていたら組織崩壊は止まらなかったでしょう。良いことも悪いことも「真摯さ」を持ってオープンに伝えるというのは、会社が上場した今も変わらない、私の経営者としてのモットーです。
──3つめの「諦めない心」についてもお聞かせください。
成功者はみんな口を揃えて「諦めなければ、成功する」と言いますよね。
私もここまでの道のりを振り返ると、諦めたくなるポイントが何度もありました。しかしその現実や失敗から目をそらさず、逃げなかったからこそ今があります。
私の経営者人生を振り返ると、私を最も成長させたのは間違いなく先ほどお話した「組織崩壊」の時でした。あの時に諦めずに逃げなかった経験が、自分にとって何よりの財産になっています。
──土屋さんが苦しい状況も諦めずに乗り越えられた原動力は何でしょうか?
これは人によると思いますが、私の場合はまずは家族の存在が大きかったですね。辛いことがあっても家に帰って妻と子供と会うことで、一瞬でも仕事のことを頭の外に出すことができました。
そして、組織崩壊の中でも腹をくくって一緒に会社に残ってくれた仲間たち。彼らはまさに戦友ですし、本当に感謝しています。
苦しい時にも逃げずに支えてくれる人たちがいたからこそ、私も「諦めない心」でここまでやってこれたのだと思います。
土屋尚史(つちやなおふみ)◎1983年生まれ。サンフランシスコに渡り海外進出支援などを経験した後、2011年9月に株式会社グッドパッチを設立し代表取締役社長 / CEOに就任。UI/UXデザインを中心に、スタートアップから大手企業まで数々の企業サービスのデザインを手がける。自社でもデザイナー向けキャリア支援サービス「ReDesigner」やクラウド型ワークスペースツール「Strap(ストラップ)」など数多くのサービスを立ち上げる。2020年6月には東証マザーズ市場への上場も果たした。