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2022.01.03

居酒屋から漁業、ペットフード販売へ。2度の危機を乗り越えた社長の「武器」とは

ゲイトの五月女圭一社長


しかし、居酒屋を展開するゲイトにとってサイズはさほど問題ではない。

「値段の付かない小さな魚でも、味は一級品です。これを活用するために、獲れたての魚をすぐに加工して東京に運び、居酒屋のメニューとして提供するという流れをつくりました。市場価値のない魚も無駄にせず、商品にできる仕組みです」


ゲイトが経営する居酒屋で提供していた、獲れたての魚を使った料理

東京に運ばれた新鮮な魚は、主におまかせコースの「生産地ファーストコース」で提供される。どのような魚が取れるかは自然次第。そのため品目をあらかじめ限定しないコースでの提供とした。このやり方であれば、採れた魚を無駄にすることがない。

魚の運搬も、自分たちで行った。三重の漁村と東京を車で往復し、新鮮な魚を居酒屋へ持ち込む。既存の流通網に頼ることなく、自ら魚を調達し提供する仕組みを構築したのだった。

メディアは「自社の機能の一部」でもある


地域にも環境にも貢献する動きだが、当初、須賀利町では同社の新規参入に“怪訝の念”を抱く人々も多かったという。「東京の居酒屋がなぜ、漁業なのか」。こうした地元の人々を変えたのが、PRの力だった。

同社の取り組みは、そのユニークさから、しだいに多くのメディアが興味を示すようになる。全国紙やテレビの全国放送、地元の放送局や地元紙、さらに業界紙に至るまで、年間50以上のメディアの取材を受けた。

「メディアで報じられることで、地元の方々も徐々に私たちの取り組みを信用してくれるようになっていきました。興味を持ってくれた地元の県議会議員や国会議員からの面談依頼も相次いで来るようになりました」

ゲイトが積極的にPRに取り組むようになったのは漁業に挑戦した直後から。始まりは「東京の居酒屋が漁業への新規参入」といった内容のプレスリリースを出したことだった。

このリリースが記者の目に留まって取材が決まり、さらにその記事を見たメディアが取材に訪れるという「PRの好循環」が回り始めたのだ。こうした「好循環」を支えたのは、五月女社長のPRへの考え方だった。

「居酒屋では、お客さまの求めるサービスを提供するのが当たり前です。この考え方を、PRにも導入しました。メディアが求めることを、求められるタイミングで提供する姿勢に徹したのです。迅速な取材対応もその一つです」

さらに、五月女社長は「メディアは『自社の機能の一部』でもある」とも話す。

「当初、銀行や同業者は、漁業への参入について詳しく説明しても、あまり理解を示してしてくれませんでした。ですが、メディアは当初から興味を持って伝えてくれたのです。そして、メディアを通じて発信されたことで、社内外の協力の輪が広がりました。メディアは、我々の考えをわかりやすく発信するための機能になっています」
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文=下矢一良

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