方向性を決めて準備したら、風が吹くまで粘り強く待つ―。
この戦略がU-NEXTを成長させていく。最初の風は10年ごろ。4Gのサービスが始まり、モバイルで動画をストレスなく楽しめるようになった。方向性が間違っていなかったことを確信した堤は、14年からエンジニアの採用を強化して配信システムを内製化。次の風に備えた。
次に吹いたのは、デジタルファーストの風だ。これまで映像コンテンツはまずDVDや放送でリリースされるのが通例だったが、ここ1~2年で配信から始めるケースが増えた。そこにコロナ禍も加わって強力な風になった。
では、これから吹く風は何か。堤は「つくり手がデジタルファーストで作品をつくる時代になる」と予測する。たとえばNetflixは配信オンリーで『全裸監督』を制作した。今後はこうした動きが加速するという読みだ。
U-NEXTは今年3月、「HBO Max」を運営するワーナーメディアと独占契約を結んだ。これで品揃えだけでなく、話題のオリジナル作品でも勝負ができる。
また、すでにスタートしている電子書籍サービスに加え、近い将来、音楽ストリーミングサービスも開始する予定だ。「日本では漫画や小説から映像作品が生まれることが多い。書籍、映像、音楽をデジタルのワンプラットフォームで提供できれば、IP(知的財産)の権利者はメディアミックスを展開しやすい」と堤は期待をかける。
NetflixとAmazonを追撃する準備は整った。あとは風が吹くのを待つだけだ。
堤天心◎東京大学工学部卒業後、リクルートを経てUSENに入社。2007年にGyaO NEXT(現:U-NEXT)の立ち上げに参画。10年のU-NEXT設立とともに事業本部長を経て、17年より現職。VODサービス黎明期からの経験で、強力な海外勢を射程に収める。