Close RECOMMEND

妖怪経済草双紙

血の巡り、という。血液が体内を循環することは、小学生でも知っている「当たり前」の事実だが、400年前の西欧では、異説も異説、主流派からめった打ちにあった。肝臓でつくられた血液は体の各部で消費され循環したりしない、これが当時の常識だった。血が巡るなど、曲学阿世の言説とされ、主唱者のウィリアム・ハーベイはやぶ医者を意味する「循環器」と蔑称された。

血液循環説の100年前がコペルニクスの地動説だ。これまた、異説だった。血生ぐさい異端裁判を引き起こしたともいわれ、「コペルニクス的転回」という用法は健在だ。

ふと思う。コペルニクスやハーベイの時代にテレビや週刊誌があったら、どのような報道をしたのだろうか。

ひげ面にちょうちんブルマをはいたワイドショーのキャスターが喚く。「血が体の中をグルグル回るだって?血は古くなると腐りますよ。ハーベイさんは私たちの体が腐敗しているって言ってるわけだ!」。週刊誌には専門家と称する法服の老爺が寄稿している。
「太陽の周りを、わが地球が回転している?なら、人はどこで誕生したのか?どうして四季があるのだ。蓋し、理論も検証もなき冒涜的妄想である」。

昨今の多くのメディアも似たような報道ぶりではないのか。いずれ劣らぬ重大テーマのコロナ禍、原発汚染水や化石燃料問題の報道には危うさを感じる。

コロナ報道のあおりや、何が専門なのかよくわからない人士のコメントはしばしば物議を醸した。ある程度は各メディアの主張としてのみ込めるが、事実の曲解や不勉強なままの垂れ流しは看過できない。

初期の情報の混乱はやむをえない。けれども、一年以上たっても真摯な勉強の跡が見られない。疫学と免疫学の区別もなく、自称専門家を多用する。アクセルとブレーキを同時に踏み続ける。ワクチン有効率も正確な定義を踏まえず誤用する。だから、国民はメディアを信じなくなる。

原発といえば、汚染水処理問題が悩ましい。当面はトリチウムへの対処だが、これに関する報道も不十分だ。

トリチウムは十分に希釈すれば、人体への危険性はあまりないといわれている。それゆえ、フランスでも米国でもカナダでも、液体で薄めたり海洋に流したりしている。フランスの液体処理量は1京1400兆ベクレル、対して福島第一原発は上限が22兆ベクレルである。

いや、いくら薄まっても毒は毒、福島の海産物など食べられないとのたまう中国原発の流出量は52兆ベクレルだ。オリンピックの場で福島食材を非難した韓国古里原発は50兆ベクレルである。いずれも日本の2倍以上だ。メディアはこうした事実をほとんど報じない。

文=川村雄介

川村雄介の飛耳長目
VOL.54

日本版STEAM教育って何?

VOL.1

「川村雄介の飛耳長目」腐敗、衆愚、利益相反...

この著者の記事一覧へ

PICK UP

あなたにおすすめ