では、そうした能力は、どのようにすれば、身につけ、磨くことができるのか。
それは、決して、心理学書を読み漁ることでも、何冊もの宗教書を読むことでもない。
現実のビジネスの現場で、日々、悪戦苦闘しながら、「いま、この部下は、どのような心境だろうか」「いま、どのような言葉を語ってあげるべきか」を考え続けること。そうした修行以外に、「心の機微」のマネジメントを身につける方法は無い。
しかし、そのとき、「人間の心」というものを学ぶための「最高の教材」がある。
それは、「自分の心」である。
例えば、成功や失敗、勝利や敗北、順境や逆境、幸運や不運、希望や不安、高揚や落胆、そうした様々な状況において、「自分の心」がどう揺れ動いているかを、静かに観察する。
その「内観」の習慣を持つと、「人間は、こうした状況で、こうした心境になるのか」「こうした言葉を言われると、こういう気持ちになるのか」ということを、深い体験知として掴むことができる。
されば、自分が部下である時代に、様々な苦労や悩みを通じて、この学びを積むこと。その体験知こそが、上司となったとき、「心の機微」のマネジメントを、素晴らしい形で開花させるだろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国7000名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』『直観を磨く』『知性を磨く』など90冊余。