バイデン政権は今月、前政権が仕掛けた日本に対する鉄鋼・アルミニウム関税戦争で、日本側に融和的な停戦を提案した。バイデン政権はそのすぐ前に、欧州連合(EU)とも同様の問題で合意をまとめている。
それだけに、英国との間ではそうした提案や合意がないのが際立つかっこうになっている。バイデンは、英国には肘鉄砲をくわせたようなものだ。オーバルオフィスのすげない態度は、今年8月のアフガニスタン駐留米軍撤収の不手際などをめぐり、英議会が異例の非難をしたことへの意趣返しとみる人もいる。
それも考えられなくないが、米国の「英国嫌い」にはオバマ政権にさかのぼる長い歴史がある。それを踏まえると、バイデンによる最近の冷遇は、英国の自決権をめぐる長年の不和に起因するようにも思える。
英国は2016年、EUに残留するかどうかをめぐって国民投票を実施した。そのキャンペーン中、英国を訪問したオバマ大統領は、英国民が投票でEU離脱を決めれば、英国は今後、米国との貿易協定を結ぶ際には「列のうしろ」に並ばなくてはいけなくなると警告した。
これは、米国の大統領が外国の選挙に対してあからさまに干渉しているととられてもしかたない発言だった。しかも、オバマはおそらく英国人の心理を読み誤っていた。外国の指導者からああしろこうしろと言われるのは、英国人の好むものではない。オバマの発言は、投票結果を残留よりもむしろ離脱に傾けた可能性がある。
2021年に話を戻すと、バイデンはかつての上司の言葉に輪をかけて強いメッセージを発している。自分の政権は英国の友人ではない、というものだ。
英国の鉄鋼やアルミニウムの生産量はたかが知れているので、関税問題それ自体は気にしないでいいだろう。真の問題は、米国からこういう冷たい応対をされ続けると、英国の国際貿易の発展にプラスにならないということだ。
それどころか、米国とより大きな貿易協定を結ぼうとしている英国に、さらに問題を招くおそれもある。端的に言えば、バイデンが英国の規模の小さい鉄鋼・アルミニウム産業向けの取引さえまとめないのであれば、英国が誇る世界レベルの防衛、製薬、銀行といった業界に寄与するようなことをするとはとても期待できないのだ。
米国と新たな貿易協定をまとめなければ、英国の経済成長はおそらく鈍化するだろうし、「iシェアーズMSCI英国小型株上場投資信託(EWUS)」に含まれるものなど、英国株の見通しも明るくないだろう。英国株、とくに中小企業銘柄は、他国の株式よりもアンダーパフォームする可能性が高くなるということだ。