ビジネス

2021.12.25 17:00

業界の激変とコロナ禍に「だからどうなのさ」、の胆力


苦境にあっても動じた素振りを見せないのは、ビール業界の激変期を何度も経験しているからだろう。尾賀が入社した1982年当時は、家庭用も瓶が主流だった。しかし、缶と自販機の普及をきっかけに、酒屋前に自社の自販機を置いてもらう営業合戦がしれつに。入社3年目に営業部に異動した尾賀も「他社の自販機をひっくり返すためにチャンチャンバラバラやった」。

1987年発売の「アサヒスーパードライ」が爆発的なヒットを記録して、業界を震撼させた。サッポロは巻き返すため、安定的に人気のあった「黒ラベル」(当時は「サッポロびん生」)をやめて、ラベルを金色にした「サッポロドラフト」を発売した。しかし、「なぜ黒ラベルをやめたのかと、飲食店さんから総スカン。ブランドは我々だけではなくお客様のものでもあると学びました」。

ちなみに黒ラベルは半年で復活。それを機に、愛称だった「黒ラベル」を正式なブランド名にしている。営業畑が長かった尾賀にとって、外部環境が一夜にして変化するのはあたりまえのこと。それらの経験を経て培った胆力が、今回のコロナでも発揮されたわけだ。尾賀は「リーダーとは、希望をつくる人」という。

「悪いことは、それだけを見てると悪いまま。どんなに苦しいときでも、元気に笑顔で、『だからどうなのさ』『なら、これをやろうよ』とみんなが一歩踏み出せるように導くのがリーダーの役目です」

では、サッポロの希望とは何か。「2026年のビール類の酒税率一本化で、本来のビールの競争に戻ります。(発泡酒や新ジャンルより)ビールの競争をしてきたわが社は、そのことをお客様にアピールできる。恵比寿ガーデンプレイスの商業棟も、2022年秋に全館リニューアル。ライフ、明治屋、Tomod’sといった生活密着型店舗は、一足先の春にオープン予定です」

若かりしころの武勇伝を尋ねたときにはポツリポツリと語るのみだったが、未来のことを尋ねると急に舌が滑らかになった。尾賀は、まさしく希望をつくる人である。


おが・まさき◎慶應義塾大学法学部卒業後、1982年サッポロビール入社。東京、大阪、北海道の主要エリアの営業、マーケティングに携わり、多くの実績を残す。目の前の酒税改正、新しくなる恵比寿ガーデンプレイスなどビール復活に尽力する。2017年より現職。

文=村上敬 写真=苅部太郎

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