サッカーチームが存続の危機に。「救世主」が語る、波乱の3年間


そしてある日、マネージャーにこう告げられた、「ユウスケ、プロブレムだ」と。チームの財政は逼迫どころか、シーズンを戦い続けることさえも危うい状況だというのだ。

それを聞いて、加藤は「自分にできることはないか」と考えた。そこで加藤は、選手としてだけでなく、チームのマネージャーとしてもスポンサー獲得のため尽力することを決心する。

そのためにまず行ったのが、チームの窮状を訴える動画の作成だった。2020年12月に自身のフェイスブックに動画を投稿したところ、多くの人からシェアされ、大きな反響を呼び、現地メディアにも取り上げられることとなった。


加藤がFacebookに投稿した動画(YouTubeチャンネルでも公開している)

反響が大きかった理由は、チーム名の「ムクティジョダ」にもあった。ムクティジョダとは「フリーダムファイター」という意味。バングラデシュが1971年にパキスタンからの独立する際に多大な貢献をした市民兵の総称なのだ。そのような名誉ある名前を冠しているだけに、国の誰もが知るチームとして多くのファンに愛されてきた。

そのムクティジョダがチーム存続の危機に瀕しており、それを救おうとしているのが日本人だという事実は、現地では大きなニュースとなり、スポンサーからも注目が集まるようになっていった。

加藤を動かす原動力とは?


加藤は、現地のメディアへも積極的に出演を果たし、PR活動を促進する。並行して、自ら企業へも赴き、営業活動を行った。とはいえ、圧倒的にクリケットの人気が高いバングラデシュでは、サッカーリーグのテレビ放送もないため、スポンサーからは「広告効果がない」と渋られることも多かったという。

それでも粘り強く交渉を続け、なんとか支援をしてくれるスポンサーを獲得。残りの運営費用の不足分については、日本でのクラウドファンディングで呼びかけ、約530万円を調達した。この資金のおかげで、チームは無事にそのシーズンを終えることができた。

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クラウドファンディングのリターンとしても提供した、加藤オリジナルデザインの限定ユニフォーム

ただ、それでチームの資金難が解決したわけではない。新たに始まったシーズンでも資金繰りは厳しいままだが、クラウドファンディングを何度もするわけにもいかない。

そんななかで、ひきつづき加藤は「アシスタントマネージャー」の肩書きでチームに関わり続け、新しく加入した2人の日本人選手とともに資金集めに奔走している。
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文=尾田健太郎 取材・編集=田中友梨

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