ただし、2010年代前半では、主な担い手は必ずしも麻辣の本場である四川出身の人たちではなく、東北地方など四川以外の地方出身のオーナーたちだった。その背景には、日本より10年早く中国では四川料理ブームが起きていたことがあった。四川だけではなく、中国全土で麻辣がもてはやされるようになっていたのだ。
当然、日本で料理店を始めた中国系のオーナーたちも、それまでは日本人の口に合わせた料理を供していたが、本国での四川料理のブームを反映して、少しずつ麻辣の味覚を試し始めた。そして、最近になってようやく本格四川火鍋の現地チェーンも都内に続々登場するようになった。
もうひとつの流れは、日本の人たちが麻辣を求めるようになったことだ。その好例が今回の麻辣グランプリといえるかもしれない。
コンテストを主催した麻辣連盟の総裁である中川正道さんは、2010年の「食べるラー油」ブームの頃から少しずつ顕在化してきた食品メーカーの麻辣食品について、2015年頃から調査を始めたという。
最初は、カップ麺や菓子類に麻辣味が多かったものの、四川料理を食べる活動である「マー活」が流行語になった2018年頃から、麻婆豆腐の素などの本格的な合わせ調味料に加え、一から自分で味を整えるために使用する特別なラー油などの中華調味料が市場に現れるようになったという。
さらにそれらに、中華食材店が中国メーカーの製造している火鍋の素などを輸入販売することで、本場の食品も加わった。今回、麺、醤(ラー油)、麻婆豆腐、火鍋、菓子という5つのジャンルでグランプリが競われたのも自然の流れだったようだ。
麻辣グランプリにエントリーされた5つの食品部門
もっとも、グランプリの運営を担当した菊池一弘さんによれば、今回の審査基準は「しびれ・辛さのバランス、麻辣普及への貢献度、独創性、コストパフォーマンス」にあり、「優劣ではなく、個性を可視化することをコンセプトに、商品の立ち位置を消費者にわかりやすく認識してもらうこと」が目的だったという。
それをわかりやすく見せてくれたのが、麻辣度の強弱を横軸に、本場四川と日本ローカライズを縦軸にして、それぞれの製品の特徴に合わせて配置した分布図だ。審査の際には、この分布図が大いに参考にされたという。
麻辣度の強弱を横軸、本場四川と日本ローカライズを縦軸にした配置図