ビジネス

2021.12.21

人手不足を背景に、人事教育制度の変革に乗り出す米小売業界

Maskot / Getty Images


こうした変革がもたらすメリットは、消費者以外にも及ぶ。例えば、コロナ禍のさなかには、一部の小売企業は店舗で働く従業員に対し、顧客にオンラインで買い物のアドバイスをしたり、質問に答えたりするよう求めていた。一部には、広く一般の人に商品についての情報を発信するため、デモンストレーションを生配信するケースもあった。

小売企業は今後、マルチチャネルを活用する新たな小売のビジネスモデルを強化していくことになる。したがって、それに必要とされる、多彩な能力を持ち柔軟に対応できる人材を育成するために、他の部分でも変革を実施するはずだ。

小売企業は、1つの職種に特化した専門能力(例えば、スポーツ用品店で働くためのスニーカーの知識など)を従業員に身につけさせるのに加えて、データや分析指標を読み解いたり、消費者の買い物体験をエンドツーエンドで管理したりできるよう、従業員を教育していくことになるだろう。そうすることで結果的に、従業員に対しても、よりやりがいのある興味深い役割を提供できるようになる。

必要とする人材を育成するために、創意工夫をこらしたアプローチを採用する企業も増えている。ウールワース・オーストラリア(Woolworths Australia)は、さまざまな部門に所属する6万人以上のスタッフに、データ分析、機械学習、仮想現実(VR)、ロボット工学の研修を行っている。

また、英国の生活協同組合、コープは、ビッグデータ分析を手がけるIRIやキール大学と提携し、データサイエンス分野での実習およびインターン制度を設けた。

こうした投資には、イノベーションを促進すると同時に、従業員の満足度を高める効果もある。「継続的学習を奨励する雇用主を、他の人に推薦する」と回答した従業員は、実に98%に達した。

また、組織構造について見直しを始めている企業もある。例えば、大手の小売企業は従来、デジタルと実店舗では別の運営チームを設けていた。しかし現在は、顧客サービスの向上を図るために、複数あったバイヤーのチームを、1つの販売管理チームに統合するケースが出始めている。

これらの取り組みは、確実に実を結ぶはずだ。デジタル系の能力に長けた労働力を擁する企業は、過去3年の収益成長率が業界平均を大幅に上回っており、今後3年間についても同様の高い成長率を維持する可能性が高い。小売企業が、人間の頭脳や能力、生産性を補完する新たなデジタル技術に重点的に投資を行うなかで、こうした企業の優位性はさらに高まる一方だとみられる。

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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