ロシア情勢に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は、ロシアの動きについて「ロシアは今年春も国境付近に軍を集結させて緊張を高めることで、6月にスイス・ジュネーブで行われた米ロ首脳会に結びつけた。ただ、今回はリアリティーが違う」と語る。米紙ワシントン・ポストは3日、米情報機関による報告書の内容として、ロシアが来年早々にも予備役10万人を含む最大17万5000人を動員してウクライナに侵攻する計画を立てていると伝えた。兵頭氏は「今回は、国境付近の広範囲でロシア軍が機動展開を行っている」と話す。
ロシアは旧ソ連構成国だったウクライナのNATO加盟に激しい拒絶反応を示している。兵頭氏によれば、クリミアの併合と、親ロシア勢力の力が強いウクライナ東部の不安定化こそ、ウクライナのNATO加盟を阻止するロシアの戦略だという。ただ、兵頭氏は「軍事侵攻は簡単ではない」とも語る。「ウクライナ東部は、親ロシア派とウクライナ政府の支配地域が併存していて、容易には切り取れない。更にクリミア半島の時は、ロシア軍ではない『自警団』が現地を押さえ、住民投票を経てウクライナから独立し、平和裏にロシアに編入したというロジックを使った。今回もしロシア軍が侵攻すれば、もはやハイブリッド戦ではなく、明白な軍事侵略になってしまう」。兵頭氏はそのうえで、「支持率が低下しているプーチン政権の政治浮揚を図るため、瀬戸際外交を展開している側面もある」と話す。
もちろん、不安な要素もある。バイデン大統領は7日の米ロ首脳会談でロシアがウクライナに侵攻した場合、「強力な経済的措置等」を取ると述べた。兵頭氏は「あの発言では、ロシアが米国による軍事報復はないと受け取ってしまう。ロシアがクリミアを併合したときのオバマ大統領の対応と全く同じだ。米国は軍事を含むあらゆる手段がテーブルの上に載っていると言うべきだった」と語る。仮に、プーチン大統領が自制したとしても、現地のロシア軍が偶発的に国境を越えてしまう可能性もないとは言えない。