日本のキンツギ、世界へ。「欠損を愛でる」心が海を越えた理由

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「金継ぎ」は壊れた陶磁器を漆で繕う日本の技術で、仕上げに金粉や銀粉、白金粉などを蒔いて装飾する。割れや欠けのある器を捨てたり、欠損部分を隠したりするのではなく、傷を受け入れ、ひび割れや欠けをあえて目立たせる手法である。壊れた器はふたたび使えるようになり、ひびを彩色することで豪華な器に変わりもする。

Forbes USではこの古くから伝わる工芸について、パリ装飾美術館アジアコレクション担当学芸員ベアトリス・ケットに聞いた。


──そもそも日本の技術「金継ぎ」とは?


漆を用いる修復法は、漆器に慣れ親しむアジア諸国には古い歴史がある。漆は接着力が強く、耐水性と耐熱性を備えている。仕上げに金属粉を蒔く目的は修復の形跡をそれとわからせ、破損も器の来歴の一部として受け入れて、価値を高めるためでもある。永く愛用すること、古さを重んじることは、その器の重要性を示す手段でもある。たとえば茶の湯では、亭主は金継ぎした古い茶碗でもてなして客に敬意を表わす。装飾美術館には金継ぎの優れた例が展示されている。

──金継ぎの最大の意義とは?


壊れた器をよみがえらせることだ。おもに茶器などの陶器の金継ぎは有名だが、磁器や漆器にもその技術が用いられ、年代物の器に雅やかな息吹を吹きこんでいる。一見簡素な品物に贅を尽くす技巧で、これほど贅沢な発想はほかに例がないかもしれない。

──破損も来歴のひとつととらえ、壊れた物を修復する金継ぎは哲学的な視点ではどういうことなのか。隠すべき粗(あら)と考えるのではなく、欠損を愛でる思想とは?


19世紀の西洋の蒐集家は、金継ぎの修復技術に興味をそそられたらしい。当時、産業革命で資本主義が誕生した結果、西洋では物を買い替えることがあたりまえになっていた。物を買いなさい、壊れたら捨てて、また新しく買えばいいというのが資本主義だ。しかし、これはごく最近の考え方で、物を捨てる習慣よりも修繕する習慣のほうがはるかに長い歴史がある。


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──金継ぎが精神的回復力の象徴であるのはなぜだろう。無常と不完全さの美意識である日本の「わび」「さび」の概念とどう関係するのか。使用するうちに生じる傷みのしるしを重んじる日本の美学と金継ぎの関係は?


たしかに「わびさび」と結びつきはある。とくに「さび」はそうだ。しかし、色彩豊かな上絵付けが特徴である古九谷の皿など、贅を極めた焼き物も金継ぎで繕われている。その種の器は普通の茶会では使用されず、宮中晩餐会や特権階級の集まる華やかな宴で供された。

──なぜ近年、金継ぎに国際的な注目が集まり、一流現代芸術家たちの作品に取り入れられているのか?


日本人やアジア系のみならず、多くの工芸家が関心を寄せ、アジア発祥の金継ぎを現代風に応用してすばらしい作品を発表している。

理由はいろいろあり、抽象的な味わいがそのひとつだ。修復跡は職人が意図した線ではなく、破損によって生じた線で、そこが人を惹きつける。

ベルナルド創業150周年を記念してサルキスが製作した作品、2018年に装飾美術館「ジャポニスムの150年展」に出品された日本人ガラス造形作家、西中千人の花器などがその例だ。

過去150年間の資本主義体制に反してリサイクルへの関心が高まりを見せる最近の風潮も、もう一つの理由と考えられる。金継ぎはたしかに高くつくが、それでも物を再生利用する素晴らしい手段と言える。

翻訳・編集=翻訳・編集=小林さゆり/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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