視力や聴覚など身体の感覚は残ったまま、徐々に筋肉が動かせなくなる進行性の難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)。英ロボット工学の博士号をもち、企業マネジメントのコンサルタントとして活躍したピーター・スコット-モーガンは、2017年にALSの診断を受けた。
余命は2年。自らのロボット工学の知識や、コンサルタントとしての組織の動かし方、少年時代にゲイであることで差別を受けつつ生涯の伴侶を見つけ、自らの将来を切り開いたキャリア。彼は、これらの経験を生かし、最先端のAI(人工知能)とロボットと融合することで「脆弱な肉体から解放された新しい人間」を目指している。自叙伝を出版した彼に話を聞いた。
──博士は、ALSと診断を受けた後、多くの医師の反対を押し切って、病気が進行する前に呼吸や排せつ、食事を機械で補助する手術を実施しました。さらに、自らの3Dアバターを作ってAIのサポートを受けながら外部とコミュニケーションを取る「人類初のサイボーグ」と称しています。博士にとって「人間」であることの意味とは何ですか。
人間は、いくら希望が砕かれても、ルールを破って運命に抗い、自らの新しい道を切り開くことができる。社会の不文律を壊すことで、我々は進歩し、文明を前進させてきた。
私は、新しいバージョンの自分「Peter2.0」に生まれ変わりつつある。そうすることで、人間であることの意味のルールを変えようとしている。私は障害者だけど障害があるとは思っていない(障害者と呼ばれることは誇りに思っている)し、ハイテク機械と融合しても「ちゃんとした人間」でなくなったわけでもない。少し変わった存在になっただけだ。
例えば、私は眠っている間に食べたり飲んだりできる。夜中にトイレに行く必要もないし、高速で休憩所に入る必要もない。実際、もう何年もトイレに行っていない。24時間給水できるし、普通の風邪もひかない。口を閉じたまま明朗に、しかもその気になればどんな言語でも話すことができる。どんな歌手よりも広い音域で歌えるし、どんなに長いスピーチも即座に暗記できる。私のアバターの髪の毛は乱れることがないし、いつも完璧だ。2年ごとに私のパワーは倍になっていて、80歳になったときには1000倍強くなっている。見た目は若いまま。
私は、ALSという病気のルールを破ろうとしている。それはつまりアップグレードであり、命を救うことでもある。どんな逆境でも人間は輝ける。それは選択の問題だ。