ビジネス

2021.12.20 07:30

2020年IPO利益額1位に輝いても「目利き」を否定する理由


そんな彼なりの投資思考を尋ねると、意外にも「自分を投資家だとは思っていない」と返した。

成長の見込みがあるスタートアップに投資することで、その後のリターンにつながる。ただし「お金」はあくまでも「道具」であり、そのビジネスをどう成長させるかを考える裏方に徹するのが自分の仕事だと言う。「我々がもっているリソースやノウハウ、経験を使って起業家のビジネスをどう大きくしていくか。いかに効率的に学びを共有できるか。時に間違った方向へ導いてしまう恐れを自覚しながらも、一緒に成長していきたい」。SaaS大手企業や医療分野からトップクラスの人材を呼び、指導の場を設けるなど工夫する。すべての投資の根底にあるのは「キュリオシティ(好奇心)」だとミルスタインは言う。

スタートアップと運命を共にする覚悟があれば、彼らと同じ夢を見ることができる。ミルスタインにとって、それがこの仕事の醍醐味なのだ。「さまざまな分野の新しいビジネスに参加できて、自分はラッキーだと思う。ひとりでは決して描けない夢を、彼らと共有させてもらえるんだから」。

主な投資先


ウィル
2012年創業。「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに、次世代のパーソナルモビリティをグローバル市場に提供する。「体に不自由がある方を大いにエンパワーする素晴らしい企業。まさにテックとヘルスケアを融合したサービスなので大いに期待している」(ミルスタイン)。

オープンロジ
2013年創業。「物流をネットワーク化し、データを起点にモノの流れを革新する」がビジョン。「急成長するECビジネスで大きな成長を期待できる会社。あらゆる規模のEC事業者が本来のビジネスに集中できるよう、ロジスティクスの障壁を取り除く素晴らしい事業を展開する」(ミルスタイン)。

メトセラ
2016年創業。「線維芽細胞」を用いて心不全の新しい治療法を開発する。「革新的な再生医療技術により、これまで治療方法が存在しなかった世界最多の死因である心疾患の患者を救うことを目指している。サイエンスとビジネスの両面に優れた経営陣が魅力的」(ミルスタイン)。


デービッド・ミルスタイン◎エイトローズ ベンチャーズ ジャパンマネジングパートナー兼代表。ペンシルベニア大学卒、ハーバードビジネススクールMBA。1995年にM&Aコンサルティング会社を起業、ディズニー・インタラクティブ・メディア・グループゼネラルマネージャーを経て12年より現職。

Eight Roads Ventures Japan◎米資産運用大手フィデリティ・インベストメンツの投資部門であるエイトローズ ベンチャーズが2012年に設立した日本法人VC。これまで40社近くのスタートアップに投資してきた実績がある。そのうちの1社であるヤプリはノーコードでアプリを作成できるソフトウェアを提供、20年12月に東証マザーズへ上場した。同時期にマザーズ上場を果たしたCXプラットフォーム「KARTE(カルテ)」を運営するプレイドにも投資。

文=中田浩子 写真=有高唯之 編集=神吉弘邦

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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