ビジネス

2021.12.20

2020年IPO利益額1位に輝いても「目利き」を否定する理由

数々の投資先企業を上場に導くグロースステージのベンチャーキャピタル。伸びる企業を見極める眼力を尋ねると、意外な答えが返ってきた。


Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2021」にも連続して選出されているヤプリ、あるいはプレイドといった注目企業に上場前から投資してきた総額470億円のファンド規模をもつエイトローズ ベンチャーズ ジャパン代表のデービッド・ミルスタインは、投資先を決定する際に重視する点をこう語った。「1番手の技術をもった5番手のチームの会社を選ぶよりも、5番手の技術でよいから1番手のチームの会社を選んだほうがいい。絶対にテクノロジーよりもチーム。テクノロジーはお金と時間があれば育てられるが、人の場合は必ずしもそうと言えないから」。

同社では現在、ミルスタインを含め3人のパートナーが投資チームを率い、投資先ポートフォリオは39社に及ぶ。投資するスタートアップがIPOを通じて高い企業価値を示すことに定評があり、20年に上場した投資先企業は4社。推定161億円のIPOによる投資利益は昨年1位(日経調査)だ。その目利き力はどこから来るのか。

彼らが投資先を決定する際に何より重視するのは、やはり「人間性」だとミルスタインは話す。知財や特許も大切だが、事業のコアとなる技術をビジネスとして成功させられるかどうかを決定づけるのは「チームとしての力」なのだと強調する。

スタートアップは事業を軌道に乗せるまでに必ずアップダウンがある。資金調達がうまくいかなかったり、重要なチームメンバーが辞めてしまったり、あるいは誰かを解任せざるをえなかったりといった危機的な時期が必ず来る。「そうした問題をCEOやファウンダーが率いるチームとして乗り越えられるかが重要だ」とミルスタイン。スタートアップをアメリカンフットボールのプレイヤーにたとえながら「ボールをもって壁をぶち壊せるパワーが大切。それをいつも見極めようとしている」とも言う。

そんな突破力以外にも、自分が知らない事柄について「知らない」と認められる素直さと学習意欲も見ている。自分の知らないことを認め、それについて学習したいという強い意欲を保ち続けなければ、ビジネスが苦境に直面した状況で素早い方向転換も難しいからだ。
次ページ > 仕事の99%は投資してからの話

文=中田浩子 写真=有高唯之 編集=神吉弘邦

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事