それ故に、バイデン大統領が1兆7500億ドル規模の「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」計画の一環として、組合を持つ米国の工場で製造された電気自動車(EV)を購入した国民に高額な税額控除を与えようとしていると聞いても、驚くには値しない。
しかし、組合を優遇することは、不人気の大統領を助けることになるかもしれないが、米国の競争力にとっては、良いことではないのかもしれない。
「UAW(全米自動車労働組合)の労働力を優遇することは、国家の競争力を高めることにはならない。それよりもむしろ、業界のリーダーを弱体化させ、後発組を利することになる。コスト構造における従来の弱点が強化されるだけだ」と、上海のアドバイザリー企業Automobilityの創設者でCEOのビル・ルッソは述べている。
米国出身のルッソは、30年にわたる自動車業界での経験を持ち、中国が米国を抜いて世界最大の自動車市場となり、EVに資本を投下するのを最前列で見てきた。 彼は、クライスラーのアジア事業を統括した後に、コンサルティング業に転身した。
現在、米国のEV市場で最大の勝者であるテスラは労働組合を持たず、大手自動車メーカーよりも早期に市場に参入した優位性を保っている。EV市場には米国以外の国のメーカーも参入しており、欧州連合(EU)は先日、バイデン政権のEVの税額控除引き上げ案が彼らを差別していると批判した。
今日の自動車産業は、史上最大の変革期を迎えている。サプライチェーンが充実している中国が世界をリードし、米国はそこに追いつこうとしている。ルッソは、消費者の電気自動車への乗り換えを促進するための税額控除を支持しているが、結局は、経済的に最も競争力のあるサプライチェーンを持つ国が、勝者になると指摘する。
補助金依存で弱体化するメーカー
「レガシーな人件費コストの負担が大きい企業に人為的な後押しをするためにクレジットを使うと、彼らを永久に補助金に依存させることになり、最終的には強いEVプレイヤーを弱めることになる」と、彼は指摘した。
バイデン大統領の計画は、労働組合を持つ米国のメーカーが製造したEVを購入する消費者に追加で4500ドルの税額控除を与えるもので、組合を持つ米国の大手には有利だが、海外のメーカーやテスラのような組合を持たないメーカーには不利な内容となっている。
このEV控除は、バイデン政権の「ビルド・バック・ベター」計画の一環であり、議会予算局は先日、新しいプログラムが恒久化された場合、今後10年間で米国の債務が3兆ドル増加すると発表した。ただし、この案が承認されるためには、上院のすべての民主党の票が必要で、ウェストバージニア州の民主党上院議員のジョー・マンチンは、高コストやその他の要素に疑問を呈している。
一方、テスラのイーロン・マスクCEOは、バイデン政権が「組合に支配されている」と批判している。今年8月、ホワイトハウスで開催されたEVサミットには、GMやフォードに加え、全米自動車労働組合のリーダーらが招かれたが、テスラは招待されなかった。