未来を拓く企業たちpwc

リーディングカンパニーとPwCコンサルティング
が語るこれからの経営課題

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和田 孝雄パーソルホールディングス株式会社
代表取締役社長 CEO

南出 修PwCコンサルティング合同会社
パートナー

リーディングカンパニーとPwCコンサルティングが語るこれからの経営課題

私たちの「はたらく」を取り巻く環境は、大きく変化しようとしている。「Well-being」という言葉が注目を集めるように、一人ひとりの幸福を基調とした労働環境の整備が、今後、社会全体でますます求められていくことが予想される。他方で、「社内失業」の増加や生産年齢人口の減少、労働生産性の低迷など、「はたらく」をめぐってはさまざまな課題を日本社会は抱えている。持続可能な未来を実現するために、企業は労働環境をどのように捉え、デザインすべきなのだろうか。

2030年に目指す姿として「はたらいて、笑おう。」を掲げるパーソルホールディングス(以下、パーソル)代表取締役社長 CEOの和田孝雄(以下、和田)と、人材をめぐる社会課題解決に向けて企業にさまざまなソリューションを提供するPwCコンサルティング パートナーの南出 修(以下、南出)が描き出す、「はたらく」の未来像とは。

働く個人の喜びにフォーカスすることがブレイクスルーになる

──パーソルは先ごろ、世界最大の世論調査・Gallup World Pollと連携して、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」の実現度を測るグローバル調査(対象:世界116カ国、約12万人)を行われましたね。3つの質問を2020年2月〜21年3月に展開し、9月に調査結果の速報として、日本の順位が発表されました。見えてきた傾向や課題はどのようなものでしたか。

和田 日本における質問への回答と世界全体で見た順位は、以下の通りでした。

グループビジョン「はたらいて、笑おう。」の実現度を測るグローバル調査

ここで注目すべきは、日本人は「自分の仕事が社会に役立っている」と感じているにもかかわらず、仕事に喜びや楽しみを感じている割合が下がるという事実です。Q1に対し「はい」と答えた率が世界全体で95位というのは、非常に衝撃的な数字でした。

Q3の仕事の選択肢に関する数値も、31位と決して高いとは言えません。働き方改革の推進やテレワーク環境の整備など、一人ひとりに合った柔軟な働き方は確実にできるようになってきています。それでも、10人に3人は他に十分な選択肢がないなかで働いている。超高齢社会による労働人口の減少により、日本社会はこれから深刻な労働力不足に陥る可能性があります。そうしたなかにあっては、働く個人のワークエンゲージメントを高め、労働生産性をも高めていかなければ未来はない。そう考えるに至りました。

和田 孝雄 パーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長 CEO

和田 孝雄

パーソルホールディングス株式会社
代表取締役社長 CEO

1962年京都府生まれ。立命館大学法学部法学科卒業後、スパロージャパンを経て91年、テンプスタッフ(現パーソルホールディングス)に入社。20年に取締役副社長、21年にパーソルホールディングス 代表取締役社長 CEOに就任。

現状を打破するためには個人の働く喜びや楽しみにフォーカスする必要があり、そうすることで日本の労働市場をよりよいものにしたい。そうした考えから生まれたのが「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンです。これは労働の起点となる個人へのメッセージとも言えます。働くことは生きること。人生を送るうえで重要かつ大きな部分を占めるものであり、生活の糧になるだけでなく、苦労があってもその末に得る達成感、満足感、誇り、喜びはWell-beingを高めることにもなります。個人の幸せはワークエンゲージメントの向上につながり、生産性の向上を生み出し、企業のさらなる発展に貢献する可能性を秘めているのです。それにより経済の成長が促され、社会全体を包み込む幸福な循環が生まれていくと私たちは信じています。

また近年の社会課題となりつつある社内失業ですが、これは企業の需要と個人の能力や希望のミスマッチから生じる場合が少なくありません。人材サービス業を担う私たちがハブとなって、デジタルを活用しながらベストマッチを生み出すことで解決していけると考えています。

南出 非常に興味深いですね。人材サービス業について言及すれば、私が携わったレポート『人材サービスの未来予想-2030年における人材サービスの役割』にも記したとおり、業界そのものがいま、大きな変革の時を迎えていると思います。人生100年時代に突入し、個人が複数のキャリアをもつことも珍しくなくなるなか、個人と企業の関係が1:1から1:nに変化しつつあるからです。さらにジョブ型での労働を希望する人、メンバーシップ(固定雇用)の関係を望む人、人とデジタルレイバーのコラボレーションなどの可能性を含めると、多様な働き方の推進が今後もなされていくでしょう。さまざまな「はたらく」選択肢を提供するシステムを生み出すことが人材サービス企業に求められると考えます。

さらに言えば、Well-beingを基軸にしたHRテックの提供やバーチャルオフィス事業など、昨今特有のアジェンダに対応する複合的なサービスのニーズも増していくと考えられます。切り離されて考えられがちだった「はたらく」と「生活」が融合すればするほど、人材サービス業には、従来の人材派遣や人材管理などに留まらない、トータルなサポートが求められるのだと思います。

南出 修 PwCコンサルティング合同会社 パートナー

南出 修

PwCコンサルティング合同会社 パートナー

1999年より20年以上にわたり、大手製造業、流通・サービス業を中心に、戦略策定、基幹システム導入、業務改革・改善、J-SOX/IFRS導入、ガバナンス強化など、幅広いテーマのコンサルティング業務に携わる。

「はたらく」には社会を変える力がある

──個々人が喜びをもって働くことのできる労働環境を実現するためには、さまざまな施策が考えられます。なかでも、企業の現場レベルで今日から始められることとして、どのような内容が考えられますか。

南出 大規模な投資をせずとも、行動様式をほんの少し変えるだけで、よりよい環境をつくり出すことはできると考えます。例えば、ミーティングのファシリテーターを参加者でもち回りにする、また参加者全員が必ず発言するようマイクを向ける。これだけで、人物の意外な一面や適した役割、強みなどが次々に発見されることでしょう。また、そうした発見をもとにコミュニケーションやコーチング、成功体験への賞賛を行う。これにより、一人ひとりに「『自分』という個が尊重されている」との意識が芽生えます。そうした意識は、仕事の達成感や喜びを生みやすくします。そこからさらなるモチベーションが生まれることで、結果的に企業の生産性向上にもつながるのではないでしょうか。

和田 おっしゃる通りですね。各々の成果を祝福し合える職場環境は、幸せな人を増やします。幸せは周囲へと次々に伝播していくものです。働く個人のWell-beingが実現すれば、自ずと生産性は向上し、企業価値も上がる。そうした企業が増えれば、先ほども申し上げた通り、社会全体に喜びの循環が生まれます。「はたらく」には、社会を変える力があるのですよね。南出さんのお話しを聞いて、あらためてそう確信しました。パーソルには人と組織に関する調査・研究を行うパーソル総合研究所がありますので、今後は働きがいと労働生産性の因果関係も実証していきたいと考えているところです。

和田 孝雄 / 南出 修

未来に向けて企業と人がいまから取り組むべきこと

──ジョブ型雇用をはじめ、新たな働き方への注目が増しています。「はたらく」をめぐる環境は、これからどう変化するのでしょうか。

和田 例えばジョブ型雇用をスタンダードにするためには、大きな制度改革が必要です。そのため、企業が一気にジョブ型労働を取り入れるというのは考えづらいでしょう。それでも徐々に浸透していくと思いますが、まずはジョブ型とメンバーシップ型を組み合わせた雇用体系が今後、普及していくはずです。

南出 スキルを重視した採用を行って生産性向上を目指すという潮流はグローバル全体で加速していますので、企業におけるジョブ型雇用実現のための動きは今後も続くと思います。企業においては、制度改革以外にもDX推進が必須になりますね。個人が労働環境を自由に選べたり、労働時間や目標を自分で設定できたりと、「はたらく」にまつわる多様性の追求は避けられない動きです。個々人で異なる複雑なニーズに企業が応えながら人材管理や最適な人材配置を実現するには、デジタルの力が必要不可欠です。

ここで忘れてはならないのは、デジタルを活用するのは人間だということです。高度化するテクノロジーが「はたらく」環境を自動で整えてくれるわけではなく、業務に従事する私たち自身がテクノロジーを活用し、一人ひとりが働きやすい環境づくりのためのトランスフォーメーションを推進していかなければならない。それゆえ、従業員のみならず求職者にも、今後はデジタルスキルの向上(デジタルアップスキリング)がさらに求められることになるでしょう。

PwCはグローバル全体で従業員のデジタルアップスキリングに取り組んでおり、私はPwCコンサルティングでデジタルアップスキリングリーダーを務めています。ここでのポイントは、年齢や役職、業務内容に関わらず全員でデジタルスキルの向上に取り組んでいることです。デジタルの知識やスキルが特定部門に集中しているようでは、クライアントの複雑化する課題に対応しきれません。誰もがデジタルを使いこなし、社会における重要な課題の解決に一丸となって貢献できるよう、まずはe-Learningで業務上必要となるツールの使い方を学んだり、全従業員にアプリを配布し、デジタルに関する最新のトレンドを把握したりできる仕組みを整えました。

本格開始から2年が経過しましたが、いまでは3,000人を超えるコンサルタント全員がデジタルを駆使した業務を当たり前に行い、各企業のDX推進支援を担えるまでに成長しつつあります。今後は、試行錯誤をしながら得た知見を、デジタルアップスキリングに取り組む企業にもお役立ていただけるよう、コンサルティングサービスを通じて活かしていきたいと思います。

和田 デジタルは業界問わず、欠かせない武器になりますよね。これからの世界でデータを活用せずにビジネスを拡大・成長させられる企業がいるとは考えづらい。デジタルスキル向上を求める人材に必要な就業機会を紹介するのはもちろん、スキルそのものを習得する学びの機会をも提供できるよう、パーソルも「準備」を進めています。

変化する社会において、人材サービス業界が新たに提供できる価値とは

──パーソルは2020年に「はたらく未来図構想」を発表されました。個人に対して、ジョブマッチングのみならず、気づきや学びを提供するラーニング、金融や健康、育児など働く周囲の環境をもフォローするプラットフォームを準備されているのですね。

和田 はい。労働市場のデータや個々のデータを活用することで、各々が“理想のはたらく未来”をデザインできるようにしようというものです。

ここで大切にしたいのは、私たち人材サービス業は、一度限りのマッチングを行って終わりではないという考えです。私たちがサービスを通じてある人に就業の機会を提供できたとして、働く一人ひとりの人生はその後も続いていきます。再就職時、転職時、独立時など、一人ひとりのターニングポイントに寄り添い、継続的にお役に立っていきたいと私たちは考えています。

こうした取り組みを実現するには、一社だけでは限界があります。志を同じくする企業と連携・協働しながら、マッチングに留まらない幅広い分野をカバーできるようにしていきます。なかでも特に重要だと考えているのは、ラーニングによる情報の非対称性の解消です。人材サービスは、企業と個人の両方を視野に入れる業種です。それだけに雇用環境の変化の予兆はある程度見えていて、10年先は難しくとも、3年先の雇用状況などは割り出すことができます。そうした情報を活用すれば、自身に将来必要となるスキルセットや、企業が求める人材像も予測することができるのです。パーソルと接点をもっていれば誰でもそうした情報を活用することができる。そして、最適なワークライフを自らデザインすることが可能になる――。そんなはたらく未来図を実現していきたいと思います。

南出 聞いていてわくわくしますね。そうした未来予測には、私たちも貢献できると思っています。特にグローバルの視点で行うメガトレンドの把握からは、未来を切り拓くためのヒントを多々得ることができます。PwCはそうした世界的な潮流と、各業界への深い知見をもとにしたシナリオプランニングを提供しています。不確実な社会を生き抜くためのポイントは、複数のシナリオを用意しておくことです。様々な変化に対してアジャイルに対応し、時には別のシナリオに切り替えることでリスクを回避し、あるべき未来の実現に向けてスピード感をもって前進していくことが可能になるのです。

PwCコンサルティングが提供するソリューション

来るべき2030年に向けて、働き方もこれからますます変わっていくでしょう。それに応じて、ビジネス自体も大きく変わり得ます。しかしパーソルが提案するように、未来の社会のあるべき姿を描き、新たな成長に挑戦する企業が、ビジネスにおける勝機をつくるのはもちろん、理想の未来を実現するのだと思います。本日はありがとうございました。

text by Roichi Shimizu
photographs by Shuji Goto
edit by Akio Takashiro

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PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。