40代になる直前、会社都合の退職をさせられるのではと予感していた僕には、他の会社に転職をするという手も充分にあった。だが、それで将来的に自分の“ウェルビーイング”を得られるか、と考えた答えは「No」だった。
僕は起業し、ニューヨークに拠点を置いて、日米の経営者やビジネスリーダーたちを相手に、企業のブランド戦略やデジタルを中心とした顧客体験の企画を担う会社を経営している。起業を選択したのは、自分にとって本質的なキャリアのウェルビーイングを得るためのサバイバル戦略であった。
ただ、これで自分の未来にギャランティーがあるわけでは全くない。定年という概念は崩れ、自分のキャリアの先はまだ長い。また子どもをもつ親として、彼らのために何を教え与えるべきかという視点でも、キャリアと向き合うことは避けられない。
これからの指標=ウェルビーイング
では、ウェルビーイングとは何か? 毎年6月に日本政府が発表する「骨太の方針」があるのだが、2021年、それに「政府の各種の基本計画等について、Well-beingに関するKPIを設定する」と記された。さらに「成長戦略実行計画案」には「一人一人の国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す」と書かれていた。
日本政府でさえも使い始めている、この「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉。「Well」と「Being」という2つの言葉がくっついて出来た文字通りの言葉で、「よい(充実した・幸せな)状態」と言う意味である。古くからある言葉なのだが、世界保健機関(WHO)が2012年に次のように再定義している。
「ウェルビーイングには、主観的なものと客観的なものの2つの次元が存在する。主観的なものと客観的なものがあり、個人の人生経験と、社会的規範や価値観との比較から成り立っている」
この「客観的ウェルビーイング」とは、給料やGDP(国内総生産)、SDGsの達成状況に関するものであり、「主観的ウェルビーイング」は充実感、幸福感、満足度と位置付けられている。それを「一人当たりのGDP」と「生活満足度」というデータで照らし合わせてみると、世界的に、客観的ウェルビーイングが向上しているのに対し、主観的ウェルビーイングは向上していない、もしくは悪化しているという。
以下に、この分野を代表する予防医学博士・石川善樹氏が「Sansan Innovation Project 2021」で発表していたデータを紹介したい。
(いずれも、石川善樹氏の資料をもとに筆者制作)
ほかにも具体的な数字を挙げると、米国は世界のGDPのランキングでは1位だが、「世界幸福度レポート(World Happiness Report)」によると14位で、「Happiness=幸福度」、つまり主観的ウェルビーイングという面では他の先進国には大きな遅れをとっている。GDPが世界で3位の日本はさらにひどく、世界幸福度レポートでは40位である。