スケボー文化の継承者たちが育つ場
実際にこの専攻の2年次である金森綸花さんも「デザイン教育があることは入学を決めるうえで魅力だった」という。東京アスリート認定選手(オリンピックを目指す選手)にも選ばれている彼女はこう語る。
「大会に出ることを目指していた時期もあったけど、私はそれよりストリートの動画をつくったりするほうがいいかなと思いました。この専攻にいる人は、公認プロとか海外でプロをめざすのではなくて、ビデオ制作やデザイン関係に進もうとしている人がほとんどで、『俺たちは大会は出ないよ』みたいな人も多いです。
今後の目標はもちろんスケボーをやる側にもなりたいし、絵が好きなのでそれを活かしたスケボー関係の仕事もいいですね。あとは、私のボードのスポンサーがアメリカの会社なので、もっと上手くなってアメリカに渡って彼らに会いに行きたいです」
3年生の齋藤波音さん(左)と、2年生の金森綸花さん
3年次の齋藤波音さんは、普通高校に入ることも考えた末に、スケートボードを極めて活躍したいという強い想いから入学を決めたという。
「スケボーを職業にするといっても、プロをめざす道だけじゃなく、CMに呼ばれたりイベントを主催したりとかの方向もある。そういうこともやっていけたらいいなと思っています。小さい頃からスケボーをやっていてもうあとにも引けないし、絶対これで食べていきたいという気持ちがあります」
齋藤さんはスケボーのスキルを活かして広告への出演や、スポーツブランドのモデルを務め、今年11月には自身でスケートスクールイベントを企画・運営を行うなど活躍の幅を広げている。そうした広告案件への出演依頼は、東京五輪後かなり増えているという。
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取材時、LAでビデオパートの撮影を行なっていた山下京之助さん。卒業後はアメリカに住むことを考えているという。
2年生の山下京之助さんは、さまざまなコンテストでの受賞歴や、ブランドからのスポンサードをもち、今年からは海外の大型スケートボードチームにライダーとして加入するなど、世界に羽ばたくプロスケーターだ。東京五輪の強化指定選手でもあった彼だが、将来の目標について次のように語る。
「近い目標だと、フルパートといって自分の撮った映像をまとめたビデオを完成させることです。でも最終的な目標は、スケーターオブザイヤーという、その年のいちばんのスケーターに選ばれることです。
次のパリ五輪には、出られたら出たいくらいの気持ちです。五輪に出るのが夢という感じではないですね。やっぱりスケボーのカルチャーって、もともとが大会からは始まっていないし、スケボーは楽しむものだから、大会とかはぜんぜん関係ないと思います。卒業するまでにビザが取れれば、卒業後にアメリカに住んで、向こうでスケボーで生きていきたいです」
前出の細井が語る「スケートボード&デザイン専攻は、カルチャーを伝える場だ」というコンセプトは、生徒の間にも浸透しているようだ。コンテストへの出場や競技などにこだわらず、とにかく自分たちの生活に不即不離のものとしてスケートボードを楽しむ姿には、カルチャーを受け継ぐ者としての確かな要素が育っているのではないだろうか。