テレワークの浸透によって成果主義が台頭した今、自己管理能力が問われている。
そこで、本連載「The Partner」では、長期にわたって第一線で活躍する「一流」の方々の、自己管理の秘訣に注目。要となる健康習慣や、その習慣を支える「相棒」を解き明かす。
連載第3回でフォーカスするのは、NAKED, INC.代表・村松亮太郎。
クリエイティブカンパニーNAKED, INC.を率い、テクノロジーとアートを主体として新たな体験を創造しつづける彼は、自己管理に対していかなるポリシーを持ち、いかに自分の身体と向き合っているのだろうか。
その姿勢や考え方からは、大塚製薬が展開するサプリメントのパイオニア「ネイチャーメイド」との共通項が見えてきた——。
自分の声に耳を傾け、
何が心地良いかを探る
東京、京都、上海、シンガポール、パリ——。2021年秋、世界各地でタンポポの綿毛が宙を舞い、あたり一面に花を咲かせた。アートプロジェクト「DANDELION PROJECT」は、オブジェに息を吹きかけると、インタラクティブな仕掛けによって各地で瞬時に花が咲く。この分断の時代、人と人とのつながりを可視化し、平和への祈りを込めた作品だ。
「僕自身は“空っぽ”なんです。外にあるものを取り込んで、ブレンダーのようにミックスされて出てきたものが作品になるような感覚。マーケティングもしないし、ただ一心に想像して生まれたものを皆さんに見てもらって、そこではじめて作品として成立する。作品を通してコミュニケーションしているのかもしれません」
そう話す村松の日常は、時間や場所にとらわれず、目まぐるしく進んでいく。コロナ禍以前は海外への移動も多く、時差や気候の変化に左右され、眠れぬ夜を過ごすこともあったという。そんな村松がたどり着いた自己管理のスタイルはひたすら「自分の身体と向き合う」ことだった。
「ルーティンをいろいろと決めてしまうと、それができないことがストレスになってしまう。国や場所が違えばそれぞれの文化も違うし、『こうしなければ』と思ってもキリがありません。だから、ただ自然に、自分が何を欲しているのかに耳を傾けることにしたんです。眠くなったときに寝て、お腹が空いたときに食べる。それがいちばん調子が良いんです」
ファーストキャリアを俳優としてスタートした村松は、当時とほとんど体型は変わっていないという。働き方改革という言葉もなかった当時の映像業界は、想像通り「生きるか死ぬか」の過酷な現場ばかりだった。自分が人より少しばかりタフであることに気づいたのは、周囲が次々と体調を崩していくのを目の当たりにしてからだった。
「わりと身体もメンタルも丈夫なほうみたいで、いまでも会社のスタッフから驚かれるんです。一人だとつい食事を後回しにしてしまうこともあるんですが、スタッフと一緒だと『そろそろお腹が空きました』と言われるので、じゃあ行こうか、となる。食事に気を配るようになったのも、ここ数年のこと。美味しいものを食べるのは好きですが、“深夜にラーメン”みたいな食べ方はほとんどしなくなりました。
なんというか……もう十分だな、と思ったんです。お腹いっぱい食べるより、腹八分目で抑えていたほうが身体も軽いし、心地良い。肉をたくさん食べるより、野菜たっぷりのサラダを食べたほうが調子も良い。ストイックにカロリー制限しているわけではなく、あくまで自分の身体に自覚的であろうとした結果、そうなってきたんです」
情報に流されず、
自らの実感を大切にする
そんな村松には、いっそう健康に目を向けるきっかけがあった。10年ほど前に首を痛め、ときおり神経痛が出るようになったのだという。調子の出ない自分と、どう向き合うのか。答えはサーフィンにあった。ハワイや奄美大島など自然豊かな場所を訪れ、仕事の合間を縫って海へ向かい、太陽の光や風のにおい、水の流れに身を委ねる。
「自分の身体からは、死ぬまで逃れられないわけです。たまにある不調と付き合っていくしかないし、逆らってもしょうがない。サーフィンをしていると、圧倒的な海の力を感じるんです。そこではただ、来る波に乗るしかない。波と対峙することによって、自分の輪郭があらわになる。自分の胸に手を当ててわかる感覚には、ウソをつきたくないんです」
自然のなかでちっぽけに思える自分と向き合ったとき、そこにはフィジカルな実感がある。毎日目まぐるしく情報がやり取りされ、どこにいても何もかもを知ることができるように思える今の時代だからこそ、ますますその実感が重要なものとなる。
「ふと周りを見渡すと、みんなスマホを睨んでいて、ゾッとすることがあります。ニュースアプリでも自分に最適化された情報が届くようになるけど、あまりに無自覚にそれを受け入れていると、自分にとって都合の良い情報しか得られなくなる。僕はそれがイヤなんです。健康においても、『これが身体に良い』という情報はあふれているけど、何が自分に合うのかは、人それぞれ違うはず。だから僕は実際に試して、実感して、自分に合うものを選びとりたい。
こういう仕事をしていると、最先端のメディアアーティストというように捉えられるのですが、僕はむしろ年々、プリミティブなものに対する探究心が増しているように感じます。
手触り感のあるものしか信じられないし、実際に足を運んで、見て、触れることによって得られるものに価値があると思うんです」
好きであることが、
つづけるための秘訣
AIやAR、VR、3Dホログラムなどテクノロジーの世界に軸足を置く村松だが、その一方で自然や伝統文化、地域文化にも強い関心を傾けてきたからこそ、日常の風景が非日常的な空間として刷新されるような、新たな体験価値を創造しつづけられるのだろう。その姿勢は、東京オフィスのほど近くにある、とある空間にも見てとれる。
JBL、McIntoshなど海外メーカーのスピーカーやアンプ、レコードプレーヤーがセッティングされたオーディオルームには、1940年代から70年代のアンプラグド作品を中心としたレコード数千枚が並ぶ。ここは言わば、村松にとっての「ラボ(実験場)」だ。一方、自宅の書斎には最新のガジェットが数多くあるのだという。現在と過去、都市と自然……対比される事象を自由に行き来することで、その大きな振れ幅のなかから、まったく新しい体験を生み出している。
「機材やケーブルを組み替えながら、ああでもないこうでもないってじっくりと考えていると、あっという間に時間が経ってしまう。ほかの人から見ると『どうしてそこまで』と言われるんだけど、自分としてはそこまで大したことをしているわけではないんです。頑張っているわけでもないし、好きだからやっているんです。そういう意味では、何かを頑張ろうとした瞬間、なかなかつづかなくなってしまう。好きでやっていること、自然体でできることが、何かをつづける秘訣なのかもしれませんね」
2021年に50周年を迎えたネイチャーメイドは、ステートメントに「つづけてきたことだけが、自分になる。」を掲げている。一日一日を大切にし、 名もなき一日が積み重なり人生になるというそのフィロソフィーに、村松は強い共感を寄せる。
「こうして話していることも、あっという間に過去になる。僕は、“いま”この瞬間だけを生きているんです。だから、自分たちの作品をカテゴライズすることに、興味はないんです。作品は変わりつづけていく。それをどう受け取るかは、体験した方次第です。けれどもそれらを俯瞰して見たとき、何らかの一貫性が見いだせるかもしれない。結果としてそれが個性であり、自分らしさだと思うんです。そしてそれは、自分の身体もそう。祖先から受け継いだこの身体からは、この世界にいる限り逃れられない。そこには雨の日も凪の日もあるでしょう。だからこそ自分と向き合って、正直でありたいんです」
出張や旅先で重宝しているというMarshallのスピーカー
毎朝のスムージーを作るジューサー
「つづけてきたことだけが、自分になる。」というステートメントを掲げるネイチャーメイド
村松亮太郎NAKED, INC.
アーティスト。NAKED, INC.代表。大阪芸術大学客員教授。
長野県・阿智村ブランディングディレクター。
1997年にクリエイティブカンパニーNAKED, INC.を設立以来、映像や空間演出、地域創生、伝統文化など、あらゆるジャンルのプロジェクトを率いてきた。映画の監督作品は長編/短編合わせて国際映画祭で48ノミネート&受賞。2018年からは個人アーティストとしての活動を開始し、国内外で作品を発表。
2020年には、分断の時代に平和への祈りで世界を繋ぐネットワーク型のアートプロジェクト
「DANDELION PROJECT」を立ち上げ、世界各地での作品設置に取り組む。
取材・文:大矢幸世
写真:小田駿一
レタッチ・リタッチ:上住真司