2006年に「PRI(責任投資原則)」というESGの観点からの投資を推奨する国際的な機関投資家イニシアチブが立ち上がってから早15年、現在では、4000を超える世界中の機関投資家がPRIへの賛同を表明。賛同者の運用資産規模は100兆ドルを超え、「もうけるための投資」から「目的をもった投資」への投資思考のシフトが鮮明になっている。いまやESG投資への賛同と関与は機関投資家にとって当然の責務になりつつあると言っても過言ではない。時勢に乗り、巨額の資産が流入しつつあるESG投資は、新たなエコシステムを生み出し、すでに一大産業になりつつある。「ESG投資エコシステム」に生息するプレイヤーが増え、機関投資家・企業間の連携によって「持続的発展が可能な社会」の実現に近づくのであれば、それは喜ばしいことであろう。
しかし、これまでESG投資戦略を推進してきた当事者からすると、拡大を続けるESG投資をめぐる現実に十分なスポットライトが当たっているか疑問に感じる。そもそも、機関投資家の職責とはなにか。「投資の神様」とも称されるウォーレン・バフェットに言わせれば、それは「投資リターンの最大化」にほかならない。そうした姿勢を示すように、氏の率いるバークシャー・ハサウェイは21年の年次株主総会で、環境関連の情報開示強化を求める株主提案を否決し、世間から批判を浴びた。彼にとっては、投資リターンの最大化に資さない投資戦略は「愚か(Asinine)」なものにすぎないのだ。
2006年に誕生したPRIは6つのESG投資に関する原則から成り立つ。E(環境)、S(社会)、G(企業統治)の要素が資産運用に果たす役割の重要性を啓蒙し、ESG投資を推奨することを目的としている。PRIに賛同する投資家は同webサイト上に署名を公開し、ESG投資への取り組みに関する定期的なアセスメントによって定量的に評価される。なお、21年8月上旬現在では、4000社を超える世界中の機関投資家がPRIへの賛同を表明した。
バフェットが放ったアンチESGの矢
20年、バフェット氏は日本の5大総合商社の株式を買い進め、金額にして6000億円もの投資を行った。投資の神様による日本企業への巨額投資は金融関係者を驚かせた。同年後半には、米国石油メジャーのシェブロンの株式を4000億円購入。総合商社もシェブロンも、キーワードは「エネルギー」だ。こうしたバフェット氏によるエネルギー関連株への投資は、ESG投資へのアンチテーゼとも解釈できる。
環境汚染リスクの高い化石燃料を取り扱う企業は、ESG投資の観点からは敬遠されており、投資家の算出する企業価値評価が割り引かれるだけでなく、一切の投資を禁止する場合さえ存在する。こうした姿勢を反映し、近年のエネルギー関連株は安定的な業績や財務状況に比して株式パフォーマンスが低迷。「ESG投資の勝利」を宣言する投資家も少なくなかった。
しかし、バフェット氏は、コロナ禍を受けて一層割安となったエネルギー関連株に目をつけ巨額の投資を実行した。結局、氏の読みは的中し、資源価格が高騰するなかで、エネルギー関連株の株価も大幅に上昇した。