ビジネス

2021.12.14

社会課題を解決する工夫の方程式。気鋭の若手起業家が挑む、これからの社会の変え方とは?


未来を課題解決で変えるために周りを「耕す」


中村の3年半の足跡をたどれば「耕す」というキーワードが浮かぶ。社会課題を解決する起業家のこだわりを届ける自社メディアtaliki.orgでは、若手起業家との関係を耕している。中村は既存のビジネスを「過剰な焼き畑」と表現する。古い投資ビジネスは素早いグロースと収穫量、速さとボリュームのある刈り取りが目的になっているからだ。一方で10年後を待てる時間軸をもつ自分たちがファイナンスで水をまきたいと語る。そういった考え方をメディアで発信し、出資パートナー企業とも直接ディスカッションすることで、大手企業の考え方をも耕しているようだ。

「大企業が社会的な活動に着手するのは、不買行動などからのリスクヘッジの文脈が強く、ESG投資も投資パフォーマンスになってしまいがちです。私たちはむしろそれを未来を変える機会ととらえ、大企業に対して『サステナブルなプロダクトだと、こういうロジックでお客様がより増えますよ』と伝えていきたいです。例えばビーガンは環境負荷の軽減になり、市場が世界的に伸びつつあるんです。いまビーガンに取り組んでおけば市場機会としてもお得だし、同時に社会課題解決になるので、機会として参入すれば、みんながそこに集まってくる。まだ道なかばですけど、そういった社会課題に取り組む企業を増やして、未来を変えていきたいです」

◉taliki
社名の由来は他力本願から。中村が挙げる普通のVCと違う点は3つ。1つ目は出資パートナー企業と連携しながら採用支援、営業支援、販路拡大支援を行う点。2つ目は従来のVCでは速く成長することが求められるが、それに合致しない社会課題解決も応援できるようプロフィットシェアを活用している点。3つ目はインキュベーション事業やメディア事業で培った社会起業家のつながりを使ってナレッジシェアができる点だ。

talikiが支えるスタートアップたち


・ブイクック
代表の工藤柊が2020年にビーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」をはじめとしたサービスの発展のために設立。ビーガン惣菜のサブスクや、食品メーカーのビーガンプロダクトのマーケティング支援などを行い、誰もがビーガンのライフスタイルを実践できる社会を目指している。中村は工藤が圧倒的な当事者意識をもっていることや新しいスタンダードをつくっていく姿勢に共感して出資した。

・Kazamidori
久保直生が2018年6月に創業。国産有機野菜生まれの離乳食「土と根」ブランドを立ち上げたほか、宅食事業など子育て家庭向けの事業を展開する。子育て家庭の食に目をつけたのは、200人以上の母親たちにヒアリングをした結果、時間も精神力も奪っているものとして「離乳食」が多く挙がったから。「子育てする親の可処分時間、可処分精神量をつくりたい」との思いに共感して出資。

・ラヴィストトーキョー
唐沢海斗が2018年、毛皮や革などの動物素材を使わないビーガンファッションのオンラインストア事業で起業。 21年、未来のレザーブランド「LOVST TOKYO」を展開。廃棄リンゴからできたバイオレザーを使った「アップルリュック」はクラウドファンディングを活用し、1日で目標額を超える100万円以上を達成。ゴミを新しいものに変える循環型の販売モデルの可能性に中村は出資を決めた。

文=狩野哲也 写真=岡安いつ美

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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