投資家の支援を受けず、アイデアとタフさでサブスクビジネスを成功に導いた。その要因を代表取締役社長の近本あゆみに話を聞いた。
ICHIGOは、日本の駄菓子やスナック菓子、チョコなど5つの種類を箱に詰め込んだボックス「TOKYO TREAT」のほか、テーマと商材の異なるサブスクリプションサービスを提供する。2015年の起業当初から現在まで、世界に届けたボックス数は、累計200万個。定期購買者数も、メルマガ会員を含め180万人を超えた。売上も、それに合わせて右肩上がりと好調だ。
Tokyo Treatのwebサイト。箱いっぱいに日本のお菓子類が詰められ、海外へ発送される。
日本のお菓子を海外へ。ともすれば、個人輸出のスモールビジネスの印象があるが、近本がこのお菓子で起業しようと決めたのは、銀座で見かけた光景がきっかけだった。
それまでは、リクルートで通販の新規事業に携わっていた。通販の面白さにのめり込むが、事業は順調とはいかなかった。それならば、「自分で通販の会社をやろう」と起業を決意するのだが、売る商品やターゲットはまだ白紙だった。
そのとき目にしたのが、銀座の街を賑わす訪日客だった。彼らがお土産として日本の物品を爆買いしていた光景を見る。「海外向けに日本の物を売れば、ビジネスチャンスがあるかもしれない」。外国人が爆買いしていたのは、化粧品、家電、キャラクターグッズ、そして、「お菓子」だった。消費の回転が早く、需要のあるものを探していた近本は、そのお菓子に目をつける。
当時、米国では「サブスクリプション・ボックス・ブーム」が起きていた。生鮮食品とレシピのボックスや、男性用カミソリの替え刃とシェービングフォームのボックスなど、日本にはまだない商材のビジネスの形があった。「このモデルでお菓子を売れば、絶対に需要があるはず」と狙いを定め、起業した。
地味で過酷な作業、這いずりまわった創業期
「菓子問屋さんの開拓、仕入れ、商品の撮影、梱包、海外配送まですべての作業を2人でやっていました。起業当時は、本当に苛酷でしたね」
上品な笑顔と明るさにあふれる近本からは苦労知らずの成長イメージがあったが、そうではなかったようだ。
自宅のリビングでインドネシア人のパートナーと2人、毎日、梱包と配送作業に追われた。仕入れから梱包、配送まですべて一貫して行う「家内工業」的なやり方だ。前近代的とも言えるが、自社で運営すれば、顧客のニーズに素早く対応でき、改善点が修正できる。これはアウトソーシングする競合他社とは違う、今も変わらないICHIGOのこだわりになっている。