ビジネス

2021.12.16

「お菓子のサブスク」で年商40億。困難だらけを乗り越えたタフ経営

ICHIGO創業者の近本あゆみ。大量の商品があふれる倉庫から、日本のお菓子が海外に送られる


起業当初は、すんなり決まると思っていた仕入れ先の開拓にも、大きく手を焼いた。

「始めた当初は誰も商品を売ってくれませんでした。問屋さんからは一見さんお断りと言われたり、とても用意できない金額の保証金が必要だったり、仕入れ先を開拓するのは本当に難しかったですね。とにかく営業回りの日々でした」

保守的な菓子業界の壁にぶつかった。用意できない商品があると、街の小売店で買ったものを詰め替えて商品を送ることさえあった。1日1個の発送から次第に30個に増え、半年も経つ頃には販売数が対前月比300%増になっていった。

積み上げた実績は信頼へと変わり、仕入れ先ルートも現金問屋から大手卸業者、大手メーカーへと拡大。今では、提携先は20社以上に上る。ついには大手菓子メーカーと提携し、ICHIGOオリジナル商品の販売も12月から開始する。

「ここまで成長するとは、想像しませんでした」というが、近本には起業当初から絶対にうまくいくという強い確信があった。世界中で日本のアニメや日本食ブームが巻き起こり、日本びいきや日本に関心を持つ外国人が増えていたことも追い風になった。「日本の物は売れるはず」。銀座で見た光景のあの時から近本はブレていない。

近本の写真
近本あゆみ◎新卒でリクルートに入社。2年目で国内向け通販事業の立ち上げに参加。2015年に起業し『TOKYO TREAT』をスタート。軌道に乗った現在、更なるサービスの拡充を計画している。

創業6年目に最大の危機 コロナ禍で国際配送が全面ストップ


「国際配送の規定が変わり、300個が返送されたといったつまずき程度のトラブルはありましたが、やはり、コロナの壁は大きかったですね」

2020年3月以降、世界各地で国際配送が相次いで全面停止となり、毎月のようにボックスが返送され、多い時で最大2万個が自社倉庫を埋めつくした。カスタマーサービスに届く苦情は、一日2千件に。国際配送は、配送料の安い郵便局に頼っていたため、海外へ配送しようにも方法がない。最大の難局を前に、近本の動きは素早かった。急遽、民間業者に当たり、5月には配送を再開させる。約1ヶ月で会社最大の危機を乗り切ったのだ。

「自分が頑張れば頑張るほど、いい結果があとから出てくるというのがわかっていましたから、あきらめるという選択肢は一切ありませんでした」。近本は、自身の性質について「足を動かし、動きながら考えるというマインド」だと自己分析する。柔らかな物腰で華奢な容姿から想像できない、彼女の「粘り強さ」と「瞬発力」が会社の危機を救った。

社員の7割は外国人。日本人には理解が難しい文化


ICHIGOが急成長を果たしたのは、海外の顧客のニーズに応えている点にある。品揃えはもちろん、パッケージのデザインやSNSでの訴求には日本人っぽさが無く、むしろ海外から見た日本というイメージが強い。それらを支えているのが、社員の7割を占める外国人社員だ。

TOKYO TREAT インスタの画面
『TOKYO TREAT』のインスタグラム。同社の制作物はどれも海外の目線を強く意識している。

外国人を積極的に採用する理由について、近本は「海外向けのビジネスの場合、カスタマー接点は、英語が得意であっても日本人では無理です。外国人のニーズをくみ取った商品選定やSNSへの投稿は、同じ文化を共有している外国人でなければうまくできません」と説明する。
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文=中沢弘子 写真=西川節子

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